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病気のプロフィル No.1

好酸球性胃腸炎

 この患者は福岡逓信病院・内科に入院し、主治医が迅速、かつ適確に診断、治療した症例、すなわち「腹水をともなった好酸球性胃腸炎 eosinophilic gastroenteritis」である。
 この病気がドイツの外科学雑誌に最初に報告されてから1900年の時点で50余年目の比較的歴史の浅い病気で、内科、小児科、一般外科に受診する可能性が高い。

症例の概要

 患者は30歳の男性。約1年前から軟便の傾向があった。2週間ぐらい前から食事とは関係なく上腹部に痛みを覚えるようになり、近くの医院で胃の X線検査と血液検査を受けて膵炎と診断された。3日前から最高 37.7℃の発熱をみるようになり、少量の食物で上腹部が張り、また食物の停滞感が著しくて数日間ほとんど食事を取らなかった。
 入院したときには、上腹部の右寄りの部分に圧痛があり、腹水が証明された。
 入院当初の臨床検査では赤沈 2/3 mm、末梢血液の白血球数は 6400/mm³(好中球 23、好酸球 44、好塩基球 1、リンパ球 27、単球 5%)。赤血球数 464×104/mm³、ヘモグロビン量 15.4 g/dl。血清タンパク質 7.5 g/dl(アルブミン 66.9、グロブリンα13.1、α27.9、β 7.7、γ 14.4%)。エラスターゼⅠ 194、アミラーゼ 62 U/ml、血清のIg E 930 U/ml。
 腹水は黄色、比重 1.034、潜血(+)、リバルタ反応(-)。穿刺液のなかに赤血球と白血球が多数存在し、白血球の96% は好酸球であった。Ouchterlony 法ですべての寄生虫に対する抗原は陰性。
 以上の臨床検査のデータで、まず末梢血液中の好酸球増多とIg Eの上昇が目立つ。
 入院当初、末梢血のヘモグロビン量は15.4 g/dlであったが、次第に低下して7.8 g/dlになり、血清タンパク質は7.5 g/dlから6.7 g/dlにまで低下した。また腹水中に赤血球と好酸球が浮遊していることも特異な所見であろう。
 入院後に高位消化管の X線検査、腹部の超音波診断、超音波内視鏡、胃の生検などの検査がなされ、以上の所見にもとづいて好酸球性胃腸炎と診断された。

好酸球性胃腸炎とはどういう病気か

 筆者の推論をも混じえて、この病気のプロフィルを次に要約する。
 外界から消化管内に入ってきた何らかの物質(飲食物にふくまれる食事成分が有力)が直接、間接に引き金になって高位の消化管、とくに幽門を境にして胃の前庭部と小腸の近位部分(主に十二指腸)の管壁に好酸球が異常に多数浸潤して、その部分に浮腫、充血、びらん、潰瘍、出血をきたして食物成分の消化、吸収が低下し、さらにタンパク質喪失胃腸症などの状態をともなう病気である。
 同時に、この例のように、末梢血液における好酸球増多に加えて腹水をともなうことも際立って特徴的な所見である。
 この病気がただならぬ病気であるという印象を与えるのは、ある程度以上進行したときに幽門狭窄と小腸の分節状閉塞、消化管出血および腹水が見られることであろう。しかし一般に適切な治療によって劇的に寛解し、また特別な治療なしに自然に寛解する例があることなどは、過敏性肺臓炎などに似ている。

症状をうらづける解剖学的所見

 上に紹介した症例では、超音波内視鏡検査などによって胃の前庭部が 12~19mmの厚さに肥厚し、五層の構造が不明瞭になっていた。また大弯側に潰瘍が発見された。
 上部消化管に肉眼的にどのような変化が生じているかは X線検査や内視鏡でおよその推測はできるが、出血などで緊急に開腹した症例では病変がよりはっきりと分かる。すなわち、胃と小腸の壁が肥厚して弾力性を失い、内腔が狭くなっている。
 以上の所見からまず疑わねばならないのは硬性がん、メネトリエ病、胃の平滑筋腫または平滑筋肉腫、悪性リンパ腫、多発性内分泌腺腫などであろう。
 筆者自身は前の三つを濃厚に疑ったが、生検によって、これらのどれもが否定された。

症候学

 好酸球性胃腸炎にはかなり長い潜行期間があるようである。この症例の軟便も潜行性の前駆症状とみなして良いかもしれない。
 顕性化すると、発熱、全身倦怠感、疲れ易さを訴え、少量の食物で上腹部の膨満感と停滞感をきたして十分に食事が取れなくなる。腹痛、下痢、胃や小腸から出血するようになり、内視鏡ではとくに胃の前庭部と十二指腸の上部のところどころに限局して浮腫、びらん、潰瘍、出血斑が見られる。
 病変の拡がりと程度によって軽度から重度の消化・吸収の障害とタンパク質喪失胃腸症をきたし、次第に鉄欠乏性貧血と低タンパク血症が目立つようになる。上に紹介した症例もまさにそのとおりの経過をたどっている。
 前に生検で胃、十二指腸壁に好酸球の浸潤が見られると述べたが、細胞浸潤が漿膜または腹膜におよぶと、腹水、ときとして胸水をみるようになり、腹水中には多数の好酸球が浮遊している。おそらく壁の血管透過性も亢進しているであろう。低タンパク血症は一層腹水の貯留を促進する。

この病気に亜型はあるか

 Klein et al.は好酸球が主に浸潤する部位によって(1)粘膜優位型、(2)筋層優位型、および(3)漿膜優位型の三つの型に分け、(1)の型は食事アレルギーに関連していることが多く、問題になりそうな食事内容の物を与えると、血液中のIgEが上昇し、(2)の型ではIgEは正常範囲内で、食物アレルギーとは無関係であろうとしている。しかし筆者は、三つの型はこの病気のその時その時の一面を示すもので、それぞれ独立とみなすべき亜型ではなかろうと考えている。好酸球が漿膜・腹膜まで浸潤する例は少ないらしいが、放置すれば、粘膜-粘膜下固有層-漿膜下-漿膜の順序で進展していくのではないかと推測される。

病歴に見られる特徴

 この病気の患者には一般にアレルギー性疾患と呼ばれる気管支ぜんそく、じんま疹、原因の明らかでない湿疹、枯草熱、特定の食物による過敏症(下痢をふくむ)などを過去に経験しているか、現在も引き続き持っている人が多いらしい。
 われわれが経験した上述の症例では過去および現在においてアレルギー疾患罹患の病歴は明らかでない。もう一度調べ直す必要があろう。

アレルゲンの検査

 筆者は、いわゆるアレルギー胃腸症に関しては、抗原の負荷による免疫血清学的検査の結果をあまり信用していない。岡山大学第二内科では腸音分析法という方法を開発し、診断の感度が高いらしいが、その信頼度は未知数である。
 上述の症例では豚肉と牛肉について比較的高い抗体価が検出されている。主治医は、今後、これらの肉を患者に食べさせて、末梢血液中の好酸球の推移を観察するようである。これも一つの方法であろう。

鑑別診断の対象になる病気

 鑑別診断の対象として、上にあげた五つの病気に筆者はさらに次の四つを加えたい。
 好酸球増多病群 hypereosinophilic diseases、上部消化管の好酸球性肉芽腫 eosinophilic granuloma、胃・腸結核 gastrointestinal tuberculosis、および非肉芽腫性胃小腸炎 non-granulomatous gastroenteritis
 以上の病気はどれもまだ独立の病気の単位として完全に確立しておらず、またごく稀であるが、上述の症例は九つの病気のどれとも明確に鑑別できる。

病因論

 筆者は好酸球性胃腸炎は臓器特異性の高いアレルギー性疾患と考えているが、その病因はよく分からない。和歌山医科大学の奥田教授一門はわが国で好酸球を研究している数少ない研究陣の一つであるが、次のような作業仮説を提出している。
 「末梢血液における好酸球増多と血液・組織両方にわたる好酸球増多とは基本的に異なる。後者の場合には血液中のIgEが上昇し、アトピー性アレルギーの性格が強い」と。

治療

 好酸球性胃腸炎の治療を要約すると、次のようになる。

  1. 1)  成人患者では小児の患者ほど食事との関連がはっきりしないが、発病後は牛乳、卵、肉、魚などの食事性アレルギーの原因になりやすい食物を除いた「除外食」を与え、糖質を主にした輸液を中心にする。
  2. 2)  早期に副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン換算量 30~40 ㎎/日)が卓効を奏する。上述の症例では胃腸症状が急速に軽症化し、腹水は消失、末梢血液中の好酸球は40%から2%に低下した。ゆっくりとしたペースでプレドニゾロン換算量7.5~10 ㎎/日の維持量に持っていくべきである。
  3. 3)  上部消化管にびらん、潰瘍が存在した上でステロイド薬を使用するから、筆者は同時にシメチジン製剤と制酸剤を併用すべきであると考えている。制酸剤はシメチジンの効果を増強するとともに粘膜保護の役割を果たす。
  4. 4)  問題は、寛解と再発を繰り返して慢性化する例の頻度が高いことである。この点は気管支ぜんそくに準じた考え方をすれば良いであろう。ただし、好酸球性胃腸炎の場合にはいろいろな組合せの食事の「除外食」を用意して、最も長く寛解が続く「除外食」を選び出すという方法が残されている。

柳瀬 敏幸 (1991.2.2)

主な参考文献

  1. 1)  奥田稔ら(1974)臨床科学 10: 183
  2. 2)  折居正之ら(1989)Gastroent Endoscopy 31: 116
  3. 3)  Herley JB et al.(1959)Ann Int Med. 51: 301
  4. 4)  Kaijser R(1937)Arch Klin Chir. 188: 36
  5. 5)  Klein NC et al.(1970)Medicine 43: 299
  6. 6)  Wyngaarden JB & Smith LH (1982)Cecil Textbook of Medicine, 16th Ed, Saunders Co, Philadelphia and others.

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