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病気のプロフィル No.5

比較的新しい病気の単位

ウイルス関連血球貪食症候群

 これまでに問題になりそうな病気のプロフィルについては、内科の医師メンバーだけに要約して紹介していたが、今回からは、池田院長の御意向もあって、要約のシートを全科の医師メンバーに配ることにした。
 このたび紹介する病気は比較的新しい病気で、最近25歳の女性に見出し、観察し得たものである。

比較的新しい病気とは

 ここでは、次のような条件を充たす病気を「比較的新しい病気」とする。

  1. (1)最初の報告がなされて以来、20年以上経っていないもの
  2. (2)わが国の学術用語集(文部省)にまだ病名が出ていないもの
  3. (3)内外の医学辞典の一部しか病名が出ていないもの

ウイルス関連血球貪食症候群とは

 この病気のオリジナルな名はvirus-associated hemophagocytic syndrome(VAHS)で、邦訳は私が勝手につけたものである。
この病名を最初に提唱した人はRisdallら(1979)で、この病気のentityを要約すれば、次のとおりである。
「生体に何らかの免疫不全の状態が内在し、その基盤の上に、ウイルス感染が引き金になって骨髄とリンパ節に組織球(histiocyte)が一様に増殖している細網症(reticulosis)の一つである。組織球は成熟した組織球で、異型性は見られず、血球を貪食している」。
 以下、この病気をVAHSの略名で呼ぶことにする。

どの科に多いか

この病気は小児科で多く報告されていたが、次第に内科、外科系からの報告も増えて、現在では小児科と他科との割合は大体6対4ぐらいではないかと思う。
 私は、15歳までの患者と16歳以上の患者とではこの病気の原因は若干異なるのではないかという印象を持っている。

病像

  1. (1)本格的な発病の前に前駆的に感冒様症状が続く。
  2. (2)発熱
    熱型は不定で、解熱剤があまり効かない38℃~39℃の熱が続く。
  3. (3)全身のリンパ節腫脹
  4. (4)汎血球減少
    ときとして末梢血中に異型リンパ球が見いだされる。
  5. (5)肝機能障害
    一般に普遍的な肝炎ウイルスは証明されず、経過は急性肝炎のそれに似ていることが多い。
  6. (6)皮膚の発疹
  7. (7)肝脾腫
    さほど目立たない程度の肝脾腫。
  8. (8)ウイルス抗体陽性
    EBVやCMVを中心としたウイルス抗体が陽性で、多種類の抗体が証明されることがある。
  9. (9)骨髄とリンパ節の組織学的所見
    前述のように、成熟した組織球が赤血球、顆粒球、血小板を貪食している。
  10. (10)血清の検査所見
    フェリチンが異常に高い。

類縁病と鑑別の対象になる病気

 まだ病気の単位として完全に確立しているわけではないから、伝染性単核球症や亜急性壊死性リンパ節炎などのリンパ節症とともに、さしあたり次の細網症(reticulosis)を主に考えなければならない。

  1. (1)組織球・骨髄細網症 histiocytic medullary reticulosis(HMR)
  2. (2)悪性組織球症 malignant histiocytosis(MH)
  3. (3)原因不明の組織球増加症 histiocytosis X
  4. (4)急性ループス血球貪食症候群 acute lupus hemophagocytic syndrome(ALHS)

 これらのなかで、明らかに血球を貪食している組織球が見いだされるのは(1)、(2)、および(4)で、さらにこれらのなかで病像がVAHSとよく似ているのはMHである。VAHSの患者と同じ部屋に入院していた患者が一ヶ月後にMHを発症した例があり、同種のウイルス感染が濃厚に疑われている(Martelliら 1982)。このようなことから、VAHSとMHの病因に共通したところがあるのではないかという意見もある。
 しかし、現在のところ、MHでは未熟な組織球と組織球前駆細胞が増加していて、異型性が強いのに対して、VAHSでは成熟した組織球で、異型性は見られない。さらにまた小児のVAHSでは予後は良好であるという、MHとはクリア・カットに分けられる特徴がある。しかし、成人のVAHSは予後の点でMHとの間にはハッキリした線が引けない。

病因

 病因については、私の推論がかなり入るのをお許し願いたい。20数例の症例報告を総括してみると、断片的ながら、次のような所見がある。

  1. (1)免疫不全状態
    免疫不全が発病の基礎になっているらしい。その根拠は、
    1. (a)SLE、RA、シェーグレン症候群、MCTDなどの自己免疫病にVAHSが発症している。
    2. (b)immunocompromised hostに発症している。
    3. (c)ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)の活性が低下、CD4陽性T細胞対CD8陽性T細胞の比は0.3前後まで低下、免疫グロブリンのいくつかのクラスが上昇している。
  2. (2)ウイルス感染
     感染が証明されるウイルスではEBVが最も多く、そのほかにCMV、単純ヘルペス、麻疹、風疹、水痘帯状疱疹、アデノウイルスなどが報告されている。
     病因についての私の推論は次のとおりである。
     普通、ウイルスが生体に感染すると、宿主細胞内でウイルス遺伝子が転写-翻訳されてウイルスのタンパク質が産生され、細胞質内に放出される。これは生体にとって有害な非自己抗原で、これにキラーT細胞が働いて、感染した細胞を排除するか、不活性化する。ところが、免疫不全の状態にある個体ではキラーT細胞の働きが落ちていて、それを代償するために、代わって細網系細胞が異常に増殖する。
    もう一つの要因は、数種類のウイルスが同時に大量感染することである。

予後

 小児科側の報告例では対症療法だけで治っている例がほとんどで、この点がVAHSがMHと違う点の一つとされている。
 ところが、成人患者の例では、短期間のうちに急速に悪化してDICを起こし、死亡している例が多い。この点で小児科のVAHSとはentityが異なるのではないかという疑問が出てくる。
 しかし、成人例の報告の一つ一つを点検すると、早期から思い切った治療をせずに、様子を見ているうちにどんどん進行したという感じのものが多い。私は、上の意見には反対ではないが、早期に適切に治療をすれば、また様相が変わってくるのではないかと今一つの期待を持っている。
 血清フェリチンの値がこの病気の予後を推定する指標になるらしい。フェリチンの大部分は組織球由来であるから、フェリチンの値が病勢を反映していることはよく理解できる。

治療

  1. (1)患者は発熱しているから、初めに大抵抗生物質を使っている。しかしほとんど効いていない。
  2. (2)ステロイド療法
    発病早期から40~50mg/日のステロイド大量療法が成人例によく効いている。パルス療法も効果を挙げている。
  3. (3)γグロブリン製剤
    γ(ガンマ)グロブリン製剤をステロイド療法と併用することをすすめる人が多い。ステロイドがあまり効かなかった例で、γ(ガンマ)グロブリン製剤を併用して急速に好転した例が報告されている。たぶん液性免疫応答を促進し、T細胞を活性化する作用によるのであろう。
  4. (4)抗ウイルス剤
    アデニン・アラビノシド、アシクロビル、インターフェロンなども推奨されている。

参考文献

文献を収集した九大第一内科の高木宏治君と小島武士君に感謝する。

柳瀬敏幸(1994.2.14)

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