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病気のプロフィル No.10

Chronic relapsing pancreatitisの一患者についての覚え書き

 8月14日に chronic relapsing pancreatitis の患者Sさん(22歳の女性)を初めて診たときには、直ぐ unusual な膵炎と感じた。
 Sさんの場合には、6歳ごろに膵炎を発症した「幼少時発症膵炎」のカテゴリーに入る。1987年における厚生省難治疾患調査研究班の全国調査によれば、20歳以下で膵炎を発症した患者はごく少なく、10歳以下となるとほとんどないという。女性患者は男性患者の半分以下である。
 Sさんは、初めのころ、毎年のように膵炎を反復して発症し、ごく軽症か、sub-clinicalな症状で発症した場合をも考慮すると、もっと頻繁にrelapseを繰り返したのではないかと推測された。発症の precipitating factor として食事よりも心身の疲労のほうが重要らしい。
 筆者はこのような juvenile onset の relapsing pancreatitis をこれまでに診たことがなく、急ぎ「取り敢えずの勉強」をして覚え書き形式でまとめることにした。
 これは「病気のプロフィル」シリーズのように一定の文献考証に上に立ってまとめたものではなく、これから患者の診断と治療を考えていく上に参考になりそうな事項を断片的に記したものである。現時点ではあまり informative でないことは初めから承知している。

表1.ケンブリッジ分類―画像による慢性膵炎の病像と重症度

重症度膵臓の影像
膵管の影像(ERCP) 膵臓の画像(CT,US)
正常 膵臓全体に異常所見がない 膵臓全体に異常所見がない
境界域 3本以下の分枝に異常 主膵管の径が2~4mm
軽度 3本以上の分枝に異常 基準Aの2項目以上を充たす
中等度 3本以上の分枝と主膵管の異常 基準Aの2項目以上を充たす
重度 上記の異常と基準Bの1項目以上を充たす 基準Aのすべてと基準Bの1項目以上を充たす
基準A
10mm以下の嚢胞、膵管の不整、限局性の急性膵炎像、膵臓実質の不均一、膵管壁のエコー増強、膵臓の頭/体部の輪郭不整。
基準B
10mm以上の嚢胞、膵管内の陰影欠損、結石/膵石灰化、膵管の閉塞(狭窄)、膵管の高度拡張または不整、USまたはCT上で隣接臓器への浸襲。

[Sarner M et al.(1984) Classification of pancreatitis. Gut 25:756].

この患者について当面知りたいこと

 acuteとchronic pancreatitis に加えて、 chronic relapsing pancreatitis が提唱されたのはかなり以前のことで、Comfort et al. (1946) の報文が最初ではないかと思う。
 以来、われわれはこの膵炎の分け方に馴染んできたが、患者Sさんには改めて表1に示すような「ケンブリッジ分類」(1984)を適用してみたい。
 以前施行されたERCPは正常だったそうだが、その後 relapse を繰り返しているうちにどう変ってきたか分らない。またCTとUSによる影像もケンブリッジ方式の基準AとBについて検証し直してみる必要がある。
 血清リパーゼのレベルと耐糖能についても知りたい。
 Sさん側の事情もあろうから、今日、明日というわけではない。中長期的に考えてもらえれば良い。

病因解析に関連すること

 筆者は、膵炎の原因頻度を小数点以下なしで、5で割り算ができる数字でカウントしている。すなわち、アルコールが55%、胆石が10%、その他の原因が5%、残りの30%は原因不明である。実際の調査資料では以上の数値に数%の出入りがあるだけで、ベッドサイドではほぼこれくらいの概算でやっていける。
 原因のよく分らない膵炎は「特発性膵炎」と呼ばれているが、Sさんの場合には、そのなかでもあまり普遍的ではないentityのものであるらしいことが分る

表2.診断の対象になり得る膵炎



筆者編成。

特発性膵炎

 筆者は、回診後、およそ1時間半にわたって手もとにあった成書 Scriver et al. (1989)のThe Metabolic Basis of Inherited Disease、Cecil(1982)のTextbook of Medicine、McKusick(1978)の Mendelian Inheritance in Man、早川編(2001)の図説消化器病シリーズ・膵炎、膵癌、および月刊の医学雑誌数冊についてあらまし調べてみた。候補として上ったのは表2に示すような病気の単位で、後で述べるように、それぞれにheterogenous etiologyの複数のentityが存在する可能性がある。
 これらの病気の単位のうち、筆者がはじめに問題にした病気を三つあげておく。

膵嚢胞性線維症

 これは欧米では広く知られている常染色体劣性遺伝病で、肺と膵臓を中心に多臓器にわたる障害が特徴的である。近ごろでは病変が膵臓にかぎっていないことから、嚢胞性線維症 cystic fibrosisの名が一般的である。筆者はミシガン大学滞在中(1957-1958)に clinical conferenceで一度遠くから見ただけで、そのほかに経験がない。神秘的とさえいえる不思議な病気である。
 筆者がSさんを最初に診たときには、発育障害がないことと膵臓以外の臓器に関連する症状が乏しいことから、この病気は除外して考えた。ところが、その後文献を読み進めるにしたがって、そう簡単に割り切れないことが分った。その主な理由は、次のとおりである。
 嚢胞性線維症にあずかる遺伝子は第7染色体の長腕に在り、27個のエキソン(構造配列)から成るかなり大きな遺伝子で、1480個のアミノ酸配列から成るタンパク質をコードしている。これは何を意味するかというと、1480×3=4440個のDNA塩基配列のどれかが別の塩基に置き換わると、定型的な線維症からそれらしくないごく軽度な線維症まで多様な病像の嚢胞性線維症が発現することを示唆している。臨床医学的事実もそれをうらづけつつある。
 これは後に述べる遺伝性膵炎についてもいえることで、このことを明らかにするには一人一人の患者についてゲノム解析をする以外に解決の方法がない。

膵管狭細型慢性膵炎

 当初、筆者はSさんについてこれも疑ったが、いろいろな点でそれらしくないと考え始めている。
 この膵炎は1961年に Sarles et al. が primary inflammatory pancreatitisとして出した報文が出発点になったもので、シェーグレン症候群をはじめとする自己免疫病に合併し、多彩な免疫異常が見られるから、経験している人は少なくないと思う。膵臓全体の腫大と主膵管のびまん性、不規則な狭細化が特徴的である。しかし報告例の多くは発病年齢が50~60歳で、Sさんの臨床像もそれらしくない。一応、抗DNA、抗Sm抗体は検査しておく必要があろう。

遺伝性膵炎

 文献の収集がまだ十分に進んでいないが、1952年に Comfort et al. が hereditary chronic pancreatitisとして報告して以来、かなりの数の報文がある。発病年齢、症状、経過などからみて、この通称「遺伝性膵炎」がSさんには more likelyであるように思えてきた。東北大学から報告された1例がよく似ている。もちろん、まだ結論には至ってはいない。
 筆者はまだ眼を通していないが、「遺伝性膵炎の国際協同調査」(Lowenfels 1997)があるらしい。それによると、遺伝性膵炎の患者は社会的適応が比較的良く、膵癌を合併しないかぎり、平均余命はかなり長いらしい。
 表3に3代にわたって42人の膵炎患者が見られたF家系の状況を示す。誠に貴重な報告である。不完全浸透の常染色体優性遺伝子によるらしいが、もちろん一つの家系単位のなかに1人ぽつん罹患者がいることはあり得る。その仕組みは柳瀬編「人類遺伝学―基礎と応用」(図書館に在り)を参考にされたい。

表3. F家系における42人の膵炎患者の臨床像


患者の性比(男/女比) 1/0.8
発症年齢 6.6±4.7歳
腹痛 100%
合併症
脂肪便 57%
30歳以降の糖尿病 40
漿液性浸出液 11
仮性嚢胞 11
膵がん (-)
脾静脈・門脈血栓症 (-)

治療
膵管・空腸吻合 35%
外科手術による回復 74
食事療法+膵酵素補充 62

Le Bodic et al. (1996)

治療のprospectiveview

 診断が決定するか、あるいはおよその見当がつけば、患者のQOLとADL向上のために radical therapy と preventive care(またはremedy)について検討しなければならない。表3は一応の参考になろう。
 ついでながら、8月17日の朝日新聞に九大第一外科の田中雅夫教授(元福岡逓信病院の外科医師)とその一門が膵臓と腎臓の同時移植に成功したと報じられていた。
 この覚え書きは短時日のうちにまとめたものであるから、明らかに informative でない。しかし、この患者さんはいずれ clinical conferenceの対象になるであろうから、情報源の一つにはなろう。
 Sさんの preventive careぐらいはみんなで協同して establishさせたいものである。もちろん、筆者もなお検討し続ける。

2001年8月20日

柳瀬 敏幸

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