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病気のプロフィル No.15

直線状胸椎症候群

 この症候群を近ごろ立て続けに2例診たから、この機会にまとめておく。
 この症候群は、不思議なことに、内外の臨床医学のテキストブックや医学事典にほとんど記載されていない。まだ独立の病気の単位として認められていないか、あるいはさほど重視されていないかのどちらかであろう。
 しかし、後で私自身の経験例が示すように、患者とその家族にいろいろと波紋を起こす可能性があるから、ひととおりの知識を持っておく必要がある。

当初の考え方

 この症候群が初めて提起されたのは今から36年前である(Rawlings 1960)。
 この症候群は診察(理学的検査)、胸部のX線写真、心電図などで心臓・大血管系に器質的な病気があるかのような所見が得られるが、さらに詳しく検査すると心臓・大血管病が見つからない。それで、1960年に「心臓病が存在するかのように見える状態 a new cause of pseudoheart disease」として提議され、直線状胸椎症候群 straight back syndrome と名づけられた(Rawlings 1960)。
 それから15年ぐらいはこの考え方で通っていたが、15年後に一転してこの症候群の病理的な意味が指摘されたのである(Tempo et al. 1975, Salmon et al. 1975)。
 私自身はこの症候群をはっきりとテキストブックに記載しておくべきだと考えている。とくに小児科領域では必要である。

私の最初の経験例

 1971年ごろだったと記憶するが、私の知人の息子(8歳)が学校検診で先天心臓病と診断され、正規の課目である運動を免除された。このことは当人ならびに家族に非常なショックを与え、私のところに相談にきた。
 当人を診ると、発育が悪く、痩せて前胸部が偏平で、左胸骨縁から心尖部にかけてLevine 4/6ぐらいの粗な雑音が聴こえ、第2音が分裂している。改めて斜位と側方向の胸部X線写真を撮ってみると、胸椎が真っ直ぐであった。
 そこで改めて大学の循環器グループに精密な検査をしてもらったところ、先天心臓病の所見は見つからなかった。これで当人ならびに家族は明るさを取りもどした。
 手放しで安心できないことは後で述べるが、この時点ではまだその点が分かっていなかった。
 以下、直線状胸椎症候群について要約するが、説明の便宜上、胸部のX線写真の所見から説明する。

胸部X線写真像

 背腹方向のX線写真だけだとこの症候群は見逃されやすい。右-左側方向と斜位の写真が必要である。
 側方向で胸郭は偏平で、かつ胸椎が生理的な彎曲を失って直線状になっている。その程度はさまざまで、甚だしい場合には、脊柱に棒を入れたように真っ直ぐである。
 さらに前胸部が偏平で、胸部の前後径が小さい。心臓と大血管は胸骨と胸椎の間にはさまれた狭い空間に押しつぶされたように平べったくなっている(pancake heart)。
 以上の二つの影像が重要な基準である。
 このような胸郭の異常にともなって心臓は左の方向に押しやられ、左心室の左外側は伸展したようになる。ときとして肺動脈円錐部は突出して、いかにも肺動脈か円錐部に狭窄があるかのように見える。
 私自身の基準では横隔膜の直ぐ上の部分で胸郭の前後径が9cm以下で、retrosternal space と retrocardial space が著しく小さいことも条件になる。
 以上のことから、この症候群では偏平な胸と直線状の胸椎の二つが必要にして最低の条件であることが分かる。
 これは私見だが、直線状胸椎症候群以外の胸郭異常、例えば亀背、亀背-側彎、はと胸などについても以下に述べるような異常な臨床所見があり得ると考えねばならない。
 また以上の偏平胸-直線状胸椎はマルファン症候群、特発性気胸、汎小葉性肺気腫などにも見られることが多い。これらのどれにもブラ、ブレーブスが発見される割合が高いが、このような点を考えると、直線状胸椎症候群は胎生期に始まる発生障害ではないかという気がする。

理学的所見と心電図所見

 心尖部でLevine 1/6~6/6の収縮期雑音が聴こえる。まれにスリルを触れることがある。また肺動脈弁と三尖弁が閉鎖する音が亢進し、呼吸によって第2音が分裂する。一部に第2音分裂が固定していることがあるから、このような点が医師を惑わせて、つい先天心臓病と考えたくなる。
 以上のような聴診所見はおそらく大動脈のねじれ、肺動脈への圧迫、右室流出路への圧迫といった心臓・大血管への機械的圧力によると推定される。
 心電図で症例の約半数はV1aVRでrsr'型を示し、T波にもいろいろな変化が見られる。(赤塚、小松 1969、赤塚 1982)。

疑われやすい心臓・血管病

 以上の所見から、疑われやすい心臓・血管病は次の五つである。
 心房中隔欠損症、肺動脈弁狭窄症、特発性肺動脈拡張症、心室中隔欠損症、僧帽弁閉鎖不全症

 直線状胸椎症候群と僧帽弁逸脱症候群

 UCGやカラー・ドップラーのような画像診断法の発達にともなって直線状胸椎症候群が決して無害でないことがわかってきた。それは僧帽弁逸脱症候群が起こりやすいことである。僧帽弁逸脱症候群の約73%に直線状胸椎症候群を主にした胸郭異常が見いだされている(Tempo et al. 1975、Salmon et al. 1975)。ごくまれに肺高血圧症が発現した例があるらしいが、これはこの症候群と因果関係があるかどうか疑わしい。

ハイリスクの直線状胸椎症候群

 この症候群における胸椎の真っ直ぐさと胸郭の異常の程度はさまざまで、その程度を数値で表そうとする試みがある(Rawlings 1960、de Leon et al. 1965、Tampas & Luire 1968)。しかし程度の推定があまり精密ではなく、程度と僧帽弁逸脱症候群の合併との相関についてもデータが乏しい。
 中にはこの症候群はあくまで pseudoheart disease で、僧帽弁逸脱症候群が存在しないものを直線状胸椎症候群としようとする考えもある(Salmon et al. 1975)。
 このように臨床と研究の基盤の薄弱なところがこの症候群に対する関心がいまひとつ盛り上がらない原因かもしれない。
 これは私見だが、ハイリスクの直線状胸椎症候群、つまり心臓・大血管病を発症しいやすい直線状胸椎症候群を決める基準を確立することが急がれる。
 臨床医学は一面ではパーセンテージ(経験的危険率 empirical risk)の上に成り立っているから、このような研究をすることも大変重要である。

柳瀬 敏幸 (1996.5.17.)

参考文献(アルファベット順)

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