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病気のプロフィル No.20

血球貪食症候群 (改訂)

 血球貪食症候群 hemophagocytic syndrome は3年前(1994年4月)にこの病気のプロフィル・シリーズで取り上げたものであるが、今回再び取り上げた理由は二つある。
 第一は、現在、入院患者の一人にこの症候群が見られること、第二は、依然としてこの症候群は医学の教科書や辞典にあまり熱心に取り扱われていないことである。記載されていない教科書が多い。

どのような病気か

 1979年に Risdall らは、組織球の反応性増殖をきたす病気の一つとして、ウイルス感染に関連する血球貪食症候群 virus-associated hemophagocytic syndrome(VAHS)という疾病単位 disease entity を提唱した。まだ20年に充たない歴史の病気である。
 この病気のプロフィルを私流に要約すると、次のようになる。
 「生体に何らかの免疫不全の状態が内在し、その状態の基礎の上にウイルスが感染すると、それが引き金になって骨髄やリンパ節に組織球 histiocyte が増殖する細網症 reticulosis の一つである。組織球は成熟した組織球で、異型性は見られず、血球を貪食している」。
 以下、この病気をVAHSの略語で呼ぶことにする。

どの科で多く見られるか

 この病気は以前、小児科領域で多く報告されていたようだが、その後次第に内科系と外科系の成人患者についての報告が増え、現在では小児科とその他の科からの報告の割合はほぼ1:1ではないかと推測される。
 私は、後で述べるように、15歳までのVAHSと16歳以上のVAHSとでは病因が異なるのではないかという印象を持っている。

臨床像

 症例報告を通覧すると、臨床像は多様で、それらをすべてカバーしようとすると、混乱して解説が先に進まない。したがって、ここでは平均的な臨床像について述べる。

(1)前駆症状
 VAHSに特異的な病態が発現する前に感冒様症状が続く。
(2)発熱
 一般に38℃~39℃の発熱が続くが、熱型は一定しない。微熱のこともある。解熱剤があまり効かない。
(3)リンパ節腫脹
 一般に全身のリンパ節が腫脹する。
(4)汎血球減少
 貧血、白血球減少、血小板減少をきたす。ときとして末梢血液中に異型のリンパ球が見いだされることがある。
(5)肝臓の機能障害
 一般に普遍的な肝炎ウイルスは証明されずに肝機能障害の所見がみられる。経過は急性肝炎のそれに似ている。肝臓の生検または剖険では肝細胞の壊死、脱落、単核球の浸潤が認められる。
(6)皮膚の発疹
 皮膚に発疹が見られることがある。その様態は一様ではない。
(7)肝腫または肝脾腫
 さほど目立たない程度に肝腫または肝脾腫がみられる。
(8)ウイルス抗体
 EBVを主にしたウイルス抗体が陽性で、ときとして多種類のウイルス抗体が証明されることがある。
 まれにウイルス、バクテリアを含む病原微生物の感染を示すデータが得られないことがある。これは一部に感染以外の要因が引き金 trigger または促進因子 precipitating factor になっている可能性を示唆している。
(9)骨髄とリンパ節の組織学的所見
 骨髄とリンパ節で成熟した組織球が赤血球、顆粒球、血小板などを貪食している。胞体内に空胞を内蔵していることがある。
(10)血清中のフェリチン
 血清中のフェリチンの値が異常に高い。
(11)高サイトカイン血症
 病気の重症度と予後を左右する指標の一つとして高サイトカイン血症 hypercytokinemia が注目されている(Imasuku et al.1991,Ishii et al.1991)。

類縁疾患と鑑別の対象になる病気

 VAHSを診断する場合に汎血球減少をきたす病気、伝染性単核球症、亜急性壊死性リンパ節炎などの病気とともに、系統的に細網組織球系細胞のびまん性増殖をきたす一連の細網症 reticulosis を鑑別の対象にしなければならない。
 主要な細網症として次のものがある。

 これらのなかで、血球を貪食している組織球が見いだされるのは(1)、(2)、および(4)である。さらに病像が一般の VAHS に似ているのは (2) の悪性組織球増多症で、自己免疫病を基盤に発症したと推定される VAHS に似ているのは (4) の急性ループス血球貪食症候群である。
 VAHSの患者と同じ部屋に入院していた患者が一ヵ月後に悪性組織球増多症を発症した例があり、同じ種類のウイルスが感染した結果ではないかと疑われている(Martelle et al.1982)。このような事例から、VAHSと悪性組織球増多症との間には共通の病因が在るのではないかという意見がある。
 しかし、現在のところ、これらは別の疾病単位であるとみなす意見のほうが多い。悪性組織球増多症では未熟な組織球と組織球前駆細胞が増加していて、異型性が顕著であるのに対して、VAHSでは成熟した組織球で、異型性は見られない。また小児のVAHSでは予後は良好であるという、悪性組織球増多症とはクリア・カットに分けられる特徴がある。
 ただ、成人のVAHSでは予後の点で悪性組織球増多症との間にはっきりした線が引けない。このような点にまだ混乱がみられる。

病因

 病因に関しては、ほとんどの報告が推論の域を出ていない。症例報告を概括してみると、断片的ながら、次のような知見が有力視される。

(1)免疫不全の状態
 免疫不全の状態が発病の基礎になっているらしい。その根拠は次のとおりである。
  • (a)SLE、成人スチル病、RA、シェーグレン症候群、MCTDなどの自己免疫病にVAHSが発症していることが多い。
  • (b)いろいろの様態の免疫不全宿主 immunocompromised host に発症している。
     抗がん剤や免疫抑制剤の長期連用の患者に VAHS が発症しうる (Risdall et al.1979)。また EBV に対する免疫調節の仕組みに異常があることが VAHS の原因ではないかと推測する研究者もいる(Sullivan et al.1985)。
  • (c)ナチュラル・キラーT細胞(NK細胞)の活性が低下、CD4陽性T細胞対CD8陽性T細胞の比が0.3前後まで低下、また免疫グロブリンのいくつかのクラスが上昇している。
(2)ウイルス感染
 感染が証明されたウイルスではEBVが最も多い。そのほかにCMV、単純ヘルペス、麻疹、風疹、水痘帯状疱疹、アデノウイルスなどが報告されている。
 上述のように、病原微生物が証明されない例もある。
(3)病因についての私の推論
 ふつうウイルスが生体に感染すると、宿主の細胞内でウイルス遺伝子が転写-翻訳されてウイルスのタンパク質が産生され、細胞質内に放出される。
 これは生体にとって有害な非自己抗原で、これにはキラーT細胞が働いて感染した細胞を排除するか、不活性化する。
 ところが、免疫不全の状態にある個体ではキラーT細胞の働きが低下していて、それを代償するために、代わって細網系細胞が異常に増殖する。
 もう一つ推測される要因は、多種類のウイルスが同時に大量感染することである。

予後

 小児科領域の報告例では対症療法だけで治っている例がほとんどである。この点が VAHSと悪性組織球増多症が異なる点の一つとされていることは前述のとおりである。
 ところが、VAHSの成人患者では短期間のうちに急速に悪化して多臓器不全、DICを起こし、死亡している例が多い。
 この点で、前に述べたように、小児科と内科領域で遭うVAHSは原因が異なるのではないかという疑問が出てくる。
 しかし、成人例の一つ一つを点検すると、発症の比較的早い時期に思い切った治療をせずに、様子を見ているうちにどんどん進行したという感じのものが少なくない。
 私は、上の意見には反対ではないが、早期に適切な治療をすれば、また様相が変わってくるのではないかという今一つの期待を持っている。
 検査データのうち、病気の予後を推定する最も有力なパラメータは血清中のフェリチンの値である。フェリチンの大部分は組織球に由来しているから、このことはよく理解できる。

治療

 患者は発熱するから、多くの場合、初めに抗生物質を使う。しかし、ほとんど効かない。また解熱剤も熱にはあまり効果はない。

(1)ステロイド療法
 発病の早期からステロイド40-50mg/日の大量療法が成人患者にはよく効いている。ときとしてパルス療法も考慮する必要がある。
(2)γグロブリン製剤
 γグロブリン製剤をステロイドと併用することを推奨する報文が多い。ステロイド療法があまり効果をあげなかった例で、γグロブリン製剤を併用して急速に症状が好転した例が報告されている。γグロブリン製剤は液性免疫応答を促進し、T細胞を活性化するからであろうか。
 できるだけ早期に使用することが望ましい。
(3)抗ウイルス剤
 アデニン・アラビノシド、アシクロビル、インターフェロンなども推奨されている。

(柳瀬敏幸 1997.10.30.)

参考文献(アルファベット順)

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