12月に入り、早いもので今年も残り1か月となりました。 忘年会やクリスマスといったイベント、そして大掃除や年賀状 づくりといった新年に向けた準備など、年末は何かと忙しいものです。
この時期に気をつけたいのがノロウイルスへの感染です。
実は1年間に発生する食中毒の約3割がノロウイルス感染によるものであり、その数は全国で毎年約300~400件にものぼります。
ノロウイルス感染による食中毒は12月から翌年3月までで年間発生件数の約8割を占めています。とりわけ、この12月から翌年1月にかけてが発生のピークになる傾向があるので注意が必要です。これはノロウイルスが、低温、乾燥にとても強く、冬場がもっとも過ごしやすい環境であるためといわれています。
さて、この「ノロウイルス」ですが、昭和43年(1968年)に米国のオハイオ州ノーウォーク(Norwalk)という町の小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者の便からウイルスが検出され、発見された土地の名前をとって「ノーウォークウイルス」と名づけられたのが語源です。その後は「ノーウォークウイルス」という名前がずっと使われてきましたが、平成14年(2002年)8月、パリで開催された第12回国際ウイルス学会において、正式な名称を付ける必要が生じ、Norwalkの「Nor」を取って「ノロウイルス」(Norovirus)と命名されました。
ノロウイルスは感染力が非常に強く、ごく少量のウイルスでも口から体内に入ることで感染します。直接の感染源として多いとされているのが、カキやシジミ、アサリ、ハマグリなどの二枚貝だといわれており、これは海中のウイルスを二枚貝が摂取することでその体内にウイルスが蓄積し、それをそのまま人間が食べてしまうことで感染に至るのではないかと考えられています。冬の時期、二枚貝を生食や不十分な加熱のままの状態で食べることは非常に危険です。
また、家庭内での感染事例として多いといわれているのは、ノロウイルスに感染した食材が付着した調理器具を介しての感染や、井戸水など消毒不十分な状態の水を摂取しての感染などです。最近では、飲食店などの調理担当者を介しての感染も多く報告されており、感染のリスクはあらゆるところに潜んでいるといえます。
ノロウイルスは感染してから発症するまでに24~48時間の潜伏期間があり、発症すると吐き気、おう吐、発熱、腹痛、下痢などの症状が現れます。感染するとウイルスは通常1週間程度(長いときは1か月程度)で、便とともに体外に排出され、症状はなくなります。
現在、ノロウイルスに効果のある抗ウイルス剤はなく、通常、対症療法が行われます。体の抵抗力が弱い乳幼児や高齢者は症状が重くなることがありますので、脱水症状を起こしたり、体力を消耗したりしないよう水分と栄養の補給を充分に行うことが重要です。脱水症状がひどい場合には病院で輸液を行うなどの治療が必要となります。
感染予防の基本は手洗いです。
調理や食事の前、外出後、トイレの後は必ず手を洗うことです。手を洗うときは石けんを使い腕から指先まで丁寧にこすり洗いをしましょう。また、感染した人のおう吐物や便を処理するときはマスクや手袋を着用するなど直接飛沫を吸い込んだり、触れないように注意し、処理した後は石けんでしっかり手を洗いましょう。
また、食材の徹底した加熱や調理器具のこまめな消毒も重要な予防法です。
調理器具の場合、85度以上の熱湯で1分以上加熱するか、塩素系漂白剤で殺菌処理を行わないと、ウイルスは完全に失活しないといわれており、注意が必要です。
感染の恐れのある期間中は、生の食材と加熱済みの食材を分けて保存する、まな板の表裏を使い分ける、などちょっとした工夫で感染を防ぐ努力が大切です。
なお、食中毒は冬場だけでなく夏場にも非常に多く発生しており、夏の食中毒の場合はほとんどがカンピロバクターやサルモネラといった細菌によって起こります。
逓信病院ウェブサイトでは食中毒の防止対策などの情報を紹介しておりますので、是非毎日の生活にお役立てください。
【参考リンク】
東京逓信病院 食中毒に要注意