― 傷の治療(湿潤療法)専門外来 ―
【ニュース】
★ 傷の治療に関するリーフレット「あなたは知っていますか?」を作成したのでご利用ください(2017年10月) ※両面印刷いただき3つ折りにしていただきますと、リーフレットが完成いたします。 ★ 2017年4月1日より定期の創傷治療(湿潤療法)専門外来は毎週月曜日と金曜日のそれぞれ午後になりました。 ★ 低温熱傷(低温やけど)に注意!今冬、最近1か月間の当院における熱傷受診者の約4割が低温熱傷です。恐るべし「低温熱傷」とは・・・(2017年1月13日) ★ 2016年4月21日(木曜日)に、YMCA京都ウイングワイズメンズクラブの例会にて、傷の湿潤療法に関する講演を行いました。
★ 2016年2月25日(木曜日)に、京都市中京西部医師会主催の学習講演会にて、傷の湿潤療法に関する講演を行いました。講演会の様子はこちらです。http://www.hospital.japanpost.jp/kyoto/blog/20160301-1.html ★ 2015年12月17日(木曜日)に、尼崎労働者安全衛生センター主催の「安全と衛生の講演会」にて、傷の湿潤療法に関する講演を行いました。 ★ 逓信医学67:185-196,2015に、特集:各逓信病院の取り組みとして、総説「これからの正しい創傷治療…湿潤療法の取り組み…」が掲載されました。 ★ 2015年4月1日付で「外科 安藤善郎先生」旧神戸逓信病院より京都逓信病院へ異動となりました。 ★ NPO湿潤治療を推進する会のHPにて、「外科 安藤善郎先生」の活動が紹介されました。(2014年10月1日付 NEWS会員活動3)
★ 神戸新聞(2014年7月5日付)に当院における「傷の湿潤療法」の記事が掲載されました。 |
[傷の湿潤療法を希望される方へのご案内]
担当医師:安藤の定期外来は毎週月曜日午後、金曜日午後ですが、それ以外の時間帯でも可能な限り
対応いたします。受診ご希望の方は予めご連絡くださいますようお願い申し上げます。
電話:075-241-7170
湿潤療法は、うるおい療法ともいわれ、体が本来持っている力「自己治癒能力」を最大限に生かす治療法です。元々、人を含めた動物には、けがや病気をしたときには自ら治そうとする力「自己治癒能力」が働きます。したがって、小さな擦り傷や切り傷ならなめておけば治ります。野生の動物は、ケガをしたら傷をなめて治します。
傷を直すためには、何よりも「傷を乾かさない」ことが大切です。生きている細胞は乾燥すると死にます。傷が乾燥すると、一見治ったように見えてしまいますが、実際に傷を乾かすことは、傷の治りを遅らせることになるのです。
傷を乾かす治療法では、1.傷を化膿しないように消毒する 2.傷がジクジクするので、ガーゼを当てる、というものでした。しかし、その治療法は、傷を治すどころか、消毒もガーゼも傷にとっては有害なものでしかありません。傷の治る仕組みを見ていくと、消毒やガーゼがなぜ害になるのかよくわかります。
傷は、さまざまな原因によってできる皮膚の損傷です。損傷が皮膚のどの部分にまで及んだのかによって傷の治り方は異なりますが、日常に起こりやすい損傷が真皮までの傷なら、傷の治る仕組みは次のようになります。
【傷が治る仕組み】
1.皮膚が損傷すると傷口に血小板が集まり血液を固めて止血をする。
2.好中球やマクロファージが集まり、傷ついて死んだ細胞や細菌を貪食し、除去する。
3.繊維芽細胞が集まり傷口をくっつける。
4.表皮細胞が集まり傷口を覆ってふさぐ。
このように、傷が治るためにはさまざまな細胞が傷口に集まってきては働かなければなりません。この傷を治すために必要な細胞を傷口に呼び寄せる役割を果たすのが「細胞成長因子」です。止血をする血小板は繊維芽細胞や好中球を呼び寄せる細胞成長因子を分泌し、マクロファージは繊維芽細胞を増殖させる細胞成長因子を分泌します。傷口では、傷を治すために最善のタイミングでさまざまな細胞成長因子が分泌され、そこに呼び寄せられた細胞たちが働いているのです。
けがをすると傷口がジクジクしてきて、傷口に当てたガーゼなどにしみてくることがあります。傷がジクジクしてくると「傷が化膿した」と思いがちですが、実は、このジクジクした浸出液に、傷を治すために必要な細胞成長因子が豊富に含まれているのです。つまり、ジクジクと浸出液が出てくるということは、体が傷を治すために一生懸命働いているということです。
傷を早く治すためには、傷口に集まった細胞たちが、最善の環境で活発に活動できるようにすることです。湿潤療法では消毒もガーゼも使いません。そのため、消毒がしみる痛みやガーゼをはがす時の痛みがありません。それに加え、傷口を乾燥させないことで、細胞成長因子に覆われた傷口では、活発な細胞分裂が行われるため傷が早く治ります。
【消毒はなぜ傷に有害か】
傷口の細菌を殺すために消毒をすると、細菌よりも人の正常な細胞のほうが大きなダメージを受けてしまいます。細菌は細胞壁によって守られていますが、人間の細胞には細胞壁がないので、消毒によって破壊されるのは人間の細胞のほうです。細胞が破壊されるということは、消毒をすればするほど、傷を治すのではなく逆に傷を深くしてしまうということです。傷口は水道水でよく洗えば十分です。
【ガーゼはなぜ傷に有害か】
傷口にガーゼを当てると、せっかく出てきた傷を治すための浸出液がガーゼに吸い取られ蒸発してしまいます。その結果、傷口が乾燥し、細胞が死んでかさぶたとなります。死んでしまった細胞からは新しい細胞は生まれません。かさぶたができると傷が治ったように見えますが、かさぶたは傷が治らない時にできるものです。かさぶたは表皮細胞が傷口を覆うのを邪魔するだけでなく、細菌の繁殖場所となり、傷を化膿させる原因になります。
また、ガーゼは傷口にくっついてしまうため、ガーゼをはがす時に、新しくでき始めた表皮細胞も一緒にはがれてしまいます。つまり、ガーゼを取り換えるたびに、傷の治療を邪魔しているのです。傷はガーゼではなくて、創傷被覆材で覆って湿潤環境を保つことが大切です。
【湿潤療法とは】
以上をまとめますと、下記の通りです。
1.創傷治癒に適する環境(=湿潤環境)を人工的に創り出すのが治療の目的。
2.創面は創傷被覆材で覆い,創面を湿潤状態に保ち,乾燥を防ぐ。
3.創面から分泌される浸出液は傷を治す細胞成長因子を含み、細胞の遊走・分裂・増殖を促す
重要な細胞培養液である。
4.創傷治癒阻害要因(創面の乾燥,消毒など)を排除:創面は消毒をしない。創面には
直接ガーゼをあてない。組織傷害性のある薬剤の使用は原則として避ける。
湿潤療法の治療に、当病院ではドレッシング材としてハイドロコロイド被覆材および創面を乾燥させずある程度の浸出液を吸収する創傷被覆材を使いますが、家庭では白色ワセリンを塗った食品用のラップフィルムでも対応できます。また、浸出液が多い場合に自家製ドレッシングとして「穴あきポリエチレン袋」+「紙おむつ」あるいは「ペット用シーツ」があります。
※自家製の創傷治療材料について【擦りむき傷の治療法】
擦り傷や切り傷だけでなく、やけどや湿疹などにも湿潤療法は有効です。やけどと擦り傷では全く違う傷のように思えますが、同じ皮膚の損傷なので湿潤療法で治すことができます。小さな擦り傷ややけどなら、傷口を水道水できれいに洗って、白色ワセリンを塗ったラップフィルムを当てるだけで数日で治ります。治るまでは、基本的に毎日ラップフィルムを取り換え、その際、傷の周囲を水で洗って清潔にするように心がけましょう。暑い季節なら1日に2~3回取り換える方がよいでしょう。湿潤療法用の絆創膏などは、毎日交換する必要のないものもありますが、傷の周囲の正常な皮膚の部分が赤くなったり、かゆみを生じたりすることもあります。汗をかきやすい季節などは毎日交換したほうがトラブルを防ぐことができます。 湿潤療法では治りにくい傷として、血行障害のある足の傷があります。この場合は病院を受診してください。
厳密な線引きは難しいですが、こういう場合は病院で治療を受けた方がよいだろう、素人治療が危険と思われるような場合を列挙します。
l 刃物を深く刺した
l 異物(木片、金属、魚骨など)を刺し、傷の中に破片が残っている
l 古い釘を踏んだ
l 動物に咬まれて、血が出ている、腫れている
l 深い切り傷、大きな切り傷
l 皮膚が欠損している
l 切り傷で出血が止まらない
l 指や手足が動かない
l 指などがしびれている
l 大きな水疱ができているヤケド
l 水疱が多発しているヤケド
l 面積が広いヤケド
l カイロ、湯たんぽ、電気カーペットなどによる低温やけど
l 砂や泥が入り込んでいる切り傷、すりむき傷
l 赤く腫れて痛みがある傷
l 傷の治療中で38度以上の熱が出た場合
湿潤療法によるジクジクか、化膿しているかは傷の状態を見ればわかります。「傷の周囲が赤く腫れている」「熱を持っている」「痛みがある」などの症状があれば傷が化膿しているので、医療機関で抗生剤等による治療が必要です。
傷を化膿させないためには、傷口に細菌の隠れ家を作らないことが大切です。細菌は、傷口に異物(砂粒やトゲなどの汚れ、細胞の死骸、かさぶたなど)があるとそこに繁殖します。そのため、消毒をするよりも水できれいに洗うことのほうが感染予防に効果があるものです。もし、傷口に入り込んだ砂や泥が洗っただけでは取れなければ、細菌感染を防ぐためにも医療機関を受診したほうがよいでしょう。
やけどで水疱ができた場合は、原則として水疱膜をハサミで切り取って除去してから湿潤療法を行いましょう。水疱膜が残っていると、そこで細菌が繁殖して傷が化膿する原因になることがあります。やけどの場合、傷が乾燥すると痛みも増しますが、傷口をラップフィルムで覆うことで痛みを軽減させる効果もあります。
傷の治療に際しては、初期の治療法が重要です。
湿潤療法は簡単にできる傷の治療方法です。そのためにも、傷についての正しい知識を身につけるようにしましょう。
当院外科では、傷の治療に関して、「消毒をせずガーゼをも使わない湿潤療法」を基本とした治療を行っています。擦り傷、開いた傷、やけど、治りにくい傷などすべての傷を治療の対象としていますので、どんなことでも結構ですのでお気軽にご相談ください。外科では傷の治療に対する救急外来はいつでもオープンですが、それに加えて、「傷の治療(湿潤療法)専門外来」を設けてありますので、ご利用ください。
創傷治療は「創面を消毒し、ガーゼをあてて乾燥させる」従来の方法から、「創面を消毒しない,乾燥させない」方法へと大きく変化しています。後者が湿潤療法であり、まさに21世紀の傷治療革命、傷治療におけるパラダイムシフトといえます。この湿潤療法は科学的な根拠に基づいた正しい創傷治療法と考えます。
湿潤療法のメリットは①痛みの少ない治療、②治療期間の短縮、③傷跡の残りにくい治療、④治療費の削減であります。
このパラダイムシフトを加速する大きな手段はインターネットであると考えます。いつでもどこでも気軽なインターネット環境、それはまさにスマートフォンの出現により著しく進歩したといえます。従来治療を受けていた患者様がその治療に疑問を感じ、湿潤療法を行っている病院をインターネットで検索して受診する時代になっています。しかし、決してインターネット検索を推奨している訳ではありません。一日でも早くすべての傷の患者様が、インターネットに頼ることなく、身近な施設で正しい傷の治療を安心して受けることのできる医療環境の実現を望みます。
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2019年2月更新 外科部長 安藤善郎
関連サイト
・新しい創傷治療 http://www.wound-treatment.jp/
・湿潤療法(モイストケア)を推進する会 http://moistcare.org/
・なついキズとやけどのクリニック http://www.natsui-clinic.jp/