生活習慣病には肥満症、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などがよく知られていますが、他にもアルコール性肝炎、慢性気管支炎、歯周病など様々な疾患があります。生活習慣病は放置すると心筋梗塞や脳梗塞になりやすいので、軽症だからとか、痛くもないからと侮ってはいけません。
このような疾患は、かつては成人病と呼ばれていました。成人病とは加齢に着目した病気の一群をいい、「年をとったら病気になるのはやむを得ない」と捉えられがちでした。生活習慣病は、生活習慣を改善することにより、病気の発症や進行を予防できるという点を強調した名称といえます。したがって一人一人が病気の予防に主体的に取り組むことが重要になります。
生活習慣病とは、ある疾患になりやすい遺伝的体質を持つ人が、食生活、運動、喫煙、飲酒、休養などの生活習慣要因が加わって発症する一群の疾患をいいます。表1にあるような病気、健康障害が生活習慣病といわれるものです。つまり、過食であったり、油脂、塩などを著しく多く食べたり、運動もせず座り仕事の生活であったり、タバコを吸って、お酒も毎日飲んでという生活を続けていると、表1に示す生活習慣病になりやすくなります。問題なのは、生活習慣病にとどまらず、動脈硬化をひき起こし、心筋梗塞、脳梗塞、癌という重篤な疾患になり、身体機能が低下したり、生命もが危険になることです。心筋梗塞、脳梗塞、癌にならないため、生活習慣を変えていく努力が必要です。
当院では生活習慣病の治療に積極的に取り組んでいます。私共の内分泌代謝内科では糖尿病、肥満症、脂質異常症などを、循環器内科では高血圧、心臓病を、呼吸器内科では慢性気管支炎という具合に各々の科で分担しながら診療しています。
ここでは内分泌代謝内科の診療について解説します。私達が最も力を入れている対策は肥満の解消、減量です。なぜ糖尿病や高血圧ではなく肥満かというと、肥満は表1で示す食習慣や運動習慣の乱れに始まり、肥満が改善されないと次々と生活習慣病が起ってくるので、これらの生活習慣病の最上流にあると考えられているからです。(図1)
図1.肥満は生活習慣病の最上流にある
肥満になると脂肪が全身に増えてきますが、皮下脂肪が増えるか、内臓脂肪が増えるかによって、その後に起ってくる生活習慣病が違ってきます。内臓脂肪が増えると、お腹が出っ張ってきます。内臓脂肪から悪玉物質(正しくはアディポサイトカイン)が作られ、血糖、血圧、中性脂肪などが高くなってきたのがメタボリックシンドロームです。メタボのままで体重を減らさないと、糖尿病、高血圧、脂質異常症が悪化して心筋梗塞、脳梗塞さらには癌が起りやすくなります。皮下脂肪が増えるとお尻や太ももに脂肪がつき、体重も著しく増えるため、膝や腰を痛める変形性関節症や、睡眠時無呼吸症候群などが起りやすくなります。
内臓脂肪が増えやすいのは中年以降の男性ですが、最近は30歳代の男性にもみられます。女性では皮下脂肪が増えていることが多いのですが、閉経後には内臓脂肪も増えてくることがわかっています。
肥満の人にどのような合併症があるかを示したものが図2です。肥満の人のうち高血圧は63%に、脂質代謝異常は51%に、痛風になる高尿酸血症は23%に、糖尿病は18%の人に合併しています。問題なのは、肥満であるとこのような疾患が同時にいくつも起ってくることです。この状態が先に述べたメタボリックシンドロームで、その結果、心血管疾患(心筋梗塞)、脳血管疾患(脳梗塞)が起りやすくなるのです。
図2.肥満者に起りやすい生活習慣病
ところがうまいことに、肥満に基づいて起きる生活習慣病は、肥満を解消あるいは軽減することで改善されます。それも標準体重にまで減量する必要はなく、たかだか今の体重の5%だけ減らせば糖尿病、高血圧、脂質異常症などが改善されます。現在80kgで肥満といわれても、3~6ヶ月の間に4kg減らすと効果があるのですから、決して難しいことではありません。
当院では、外来で管理栄養士が栄養相談を行っており、無理なくやせる方法について相談を受けていますし、月に1、2回ダイエット教室を開きわかりやすいダイエット法の指導を行っていますので、是非ご利用ください。
しかし、生活習慣病を治療するより、生活習慣病にならないようにすることの方がもっと賢明です。その予防は決して難しいものではありません。表2に示すように健康によいと思うことをあたりまえにやればよいのです。自分自身で1から8までにあてはまるものがあれば、早速改善に向かって行動を開始しましょう。無理をせずに少しずつ健康の目標に到達できるよう心がけてください。