慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)という言葉はご存じでしょうか?CKDとは、腎障害を示す所見や腎機能低下が慢性的に続く状態で、放置したままだと末期腎不全となり、人工透析や腎移植を受けなければ生きられなくなってしまいます。現在、日本には約1,330万人のCKD患者がいるといわれています。これは、成人の約8人に1人にあたる数です。さらにCKDでは、心臓病や脳卒中などの心血管疾患にもなりやすいことが明らかになっており、いかにCKDを治療し、心血管疾患を予防するかが大きな問題となっています。
CKDのお話しをする前に、まずは腎臓の働きについて理解しましょう。腎臓は腰の少し上に背骨をはさんで左右に1つずつ(計2つ)ある、そら豆型をした、こぶし大の約150gの臓器です。ご存じの通り、腎臓は尿を作る臓器なのですが、血液が来なければ尿は作れません。このため腎臓は、心臓から出る血液の1/4~1/5程度が流れる血流の多い臓器です。腎臓は、尿を出すことを含めた、体のバランスを整える役割をしています。
腎臓の代表的な働きは尿をつくることです。1つの腎臓にはネフロンという組織が約100万個あり、その1つ1つで尿がつくられています。ネフロンは、糸球体とよばれる毛細血管のかたまりとそれを包む部分(ボウマン嚢)、とそれに続く尿細管とからなります(模式図)。糸球体でろ過された血液(原尿)は尿細管を経て尿となり、尿中へは血液中の老廃物が余分な水分とともに排泄されます。老廃物の代表は、クレアチニン(Cre)、尿素窒素(BUN)、尿酸(UA)などがあり、体に貯まってくると有害になります。
尿細管はナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、リン(P)、重炭酸イオンなどのうち体に必要なものを取り込み、不要なものを尿中へ分泌して排泄しています。これにより、体内のイオンバランスを一定に保ち、血液を弱アルカリ性に保っています。通常、腎臓では絶えず血液がろ過されて一日に約150リットルもの原尿が作られていますが、尿細管で水分が再吸収されて1.5リットル(99%が再吸収されている計算になります)ほどの尿になります。
腎臓は血流の流れが悪くなるとそれを感知し、レニンという酵素が分泌されます。このレニンは、血液中のたんぱく質と反応して、血管を収縮させ血圧を上昇させるアンジオテンシンを作ります。腎臓はレニンの分泌量を増減させて血圧を調整します。腎臓の機能が低下すると、むしろレニンの分泌が増加し、血圧は上昇します。
腎臓はエリスロポエチンというホルモンを分泌しています。エリスロポエチンは骨髄の造血幹細胞に働いて、赤血球の数を調整します。腎臓の機能が低下してエリスロポエチンの分泌が少なくなると赤血球も減少し、貧血症状が出現します。
骨の形成には、ビタミンDが大切な役割を果たします。ビタミンDは腎臓に移ると活性型となり、小腸からのカルシウムの吸収を促進して、その利用を高める作用があります。このため、腎臓の機能が低下するとカルシウムの吸収が悪くなり、骨粗鬆症などの原因になります。
話をCKDに戻しましょう。CKDとは、具体的には、腎臓の機能が低下している状態か、たんぱく尿などの障害が3ヵ月以上続くことをいいます。これらは腎炎、糖尿病、高血圧症などさまざまな原因によって起こります。長い期間にわたり腎臓の負担が続くと、腎機能が低下して、上記の腎機能が破綻した状態、すなわち腎不全をまねく危険性が高まります。すなわち、腎不全になると、水や電解質が排泄されにくくなるため、水分が体内にたまり、浮腫(むくみ)や高血圧がみられます。また進行すれば、貧血が進み、骨がもろくなるのです。
CKDにはその進行度に応じて病期があり、尿たんぱくが出ているだけのステージ1から、末期腎不全・透析期であるステージ5までに細かく分類されています。腎臓は一度悪くなると回復させるのが難しい臓器で、ステージに合わせた治療することで悪化させないことが大切です。もちろん、これらのステージが早いうちから治療しておいた方が、腎不全への進行を遅らせることができます。しかし問題は、これらのステージが早いうちには自覚症状が出ないことにあります。腎臓は物言わぬ臓器といわれます。多少悪くても何も感じない。気づかないうちに徐々に腎機能が低下し、腎不全へと病態が悪化していることもあるのです。
こういったことを予防するにはどうしたら良いのでしょうか?それはまず、健康診断で指摘される、尿たんぱくなどの異常所見を放置しないことです。尿たんぱくは、糸球体が傷ついている目安となる一方で、尿たんぱくが多い場合は、約2倍の速度で腎機能が低下することが知られています。このため、尿たんぱくは“腎臓の涙”と表現されることがあります。また、定期的に病院を受診されている場合、採血上のCreの値から、簡単にご自身の腎機能を、下記のウェブサイトなどで推測できます。(ほっとけないぞ、CKD:http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shippei/ckd/index.html)
このように自覚症状がなくても、ご自身の腎臓の状態を把握することができるようになっています。もし上記のような異常がある場合、腎機能に不安がある場合には、当科を受診されることをお勧め致します。最後になりましたが、腎臓は体のバランスを整える役割をしており、日常生活と密接に関連しています。まずは、このように一生懸命働いている腎臓の負担を少しでも軽くするために、腎機能が正常であっても、肥満の是正や減塩などの規則正しい食事などを心がけてみませんか?
図.腎臓の構造