第104号 平成24年4月1日発行
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皆さんは胸腔鏡手術をご存知でしょうか。胸腔鏡手術とは胸部における内視鏡手術のことで、医学的には一般的にVATS(Video Assisted Thoracoscopic Surgery)と呼ばれています。従来から呼吸器外科で行われていた手術方法は開胸手術と言われるもので手術創が20cm前後ですが、それと比較して胸腔鏡手術の最大のメリットは手術創が小さく患者さまへの侵襲(身体的負担)が少ないことです。そのため、開胸手術に比べると術後の回復が早く入院期間も短くなっており、当院においては、自然気胸や良性疾患では多くの患者さまが術後3日以内、悪性腫瘍では多くの患者さまが1週間以内に退院しています。
日本で胸腔鏡手術が行われるようになったのは1990年代のはじめ頃で、約20年の歴史があります。始めのころは主に自然気胸に対する手術を行っていましたが、徐々に新たな手術器具などが開発されるとともに技術的にも進歩したため、現在では縦隔腫瘍(縦隔:両肺の間)や肺癌など多くの呼吸器外科領域の手術ができるようになりました。胸腔鏡手術は内視鏡で映し出される画像をモニターで見ながら、内視鏡手術用の特殊な鉗子(組織をつかんだりする道具)(写真1)や自動縫合器(写真2)などを用いて、肺の一部を切除したり、肺葉を切除したり、腫瘍を摘出したりします(写真3)。
しかし、すべての病院の呼吸器外科で行える方法ではなく、また胸腔鏡手術を行っているとされる病院でもその施設によって方法が異なる場合があり、完全に胸腔鏡のモニターだけを見ておこなう方法(完全胸腔鏡下手術)で行っている施設と、10cm前後のキズを開けてそこから臓器を直接見たりモニターを見たりするのを併用しながら行う方法(小開胸併用胸腔鏡手術)で行っている施設があります。従って、ひとくちに胸腔鏡手術といっても手術創がやや大きくなってしまう施設もあります。
当院では、完全鏡視下手術の方が小開胸併用胸腔鏡手術に比べて、より侵襲が少ないと考えて完全胸腔鏡下手術を行っています。そのため当科での手術のキズは、気胸や縦隔腫瘍の場合は1cm前後のものが1~4か所、肺癌の場合は1cm前後のものが2~3か所と5cm前後のものが1ヶ所で行っています(写真4)。自然気胸では当院独自の方法として1ヶ所のキズだけで行う1port法(写真5)を、可能な症例に対して行っています。
前述しましたが、現在では自然気胸、原発性肺癌、転移性肺腫瘍、良性縦隔腫瘍、肺良性腫瘍など呼吸器外科領域の多くの疾患に対して胸腔鏡手術が行われるようになりました。しかし、胸腔鏡手術にも限界はあり、どのような症例でもできるというわけではありません。自然気胸に関しては、ほぼ100%の確率で胸腔鏡手術が可能ですが(当院では過去5年間は全例胸腔鏡手術で行いました)、原発性肺癌に関しての一般的な適応は、術前の画像診断で腫瘍径が3cm以下でリンパ節転移のないものとなっています。しかし、当院では腫瘍径が4~5cmまでで患者さまのご希望があれば胸腔鏡で行える可能性はあります。
また、他の疾患に関しては病変が5cm以下であればできる限り胸腔鏡下手術を行うようにして、患者さまへの負担を軽くするように心がけています。もし、検診などで肺や縦隔に病気が見つかってしまった場合はぜひ当科(東京逓信病院呼吸器外科)の医師にご相談ください。
画像1 胸腔鏡手術の主な鉗子
画像2 自動縫合器
画像3 胸腔鏡手術の術中風景
画像4 胸腔鏡下肺葉切除術(肺癌の手術)術創
画像5 自然気胸の1port法の術創