図1 黄斑
網膜の中心部を「黄斑(おうはん)」と呼び、物を見る細胞(視細胞)がたくさん集まっており、その中心がほんのちょっとやられるだけで視力が0.1以下になってしまう大変重要な部分です(図1)。
その黄斑の中央に穴が開いてしまう病気が「黄斑円孔」です。黄斑に穴が開くと丸い形になることが多いので、「円孔」と呼んでいます。高齢者に多い病気ですが、強度近視の方、眼球を強く打撲した後などでは若い人に起こることもあります。
黄斑円孔の初期の場合は、物の形が歪んで見える「変視症」がおこります。黄斑円孔の場合は、中心がすぼんで見えるような歪み方をします(図2)。黄斑部の網膜に完全に穴が開いてしまうとその部分は外界の光が投影されなくなるので、見ようとする中心がみえなくなります(中心暗点)(図3)。網膜剥離をおこさない限り、進行しても視野の周辺部は保たれますが、視力は低下し、矯正しても0.1以下の視力になってしまいます。稀に黄斑円孔から網膜剥離になることがあり、その場合は放置すると全盲になる危険があります。
図2 変視症(中心に吸い込まれるように
見える場合)
図3 中心暗点
視力検査:初期は変視症のため、末期は網膜に穴が開いてしまうため視力が低下します。
眼底検査:眼底検査や眼底写真撮影で黄斑部網膜に円形の穴が開いているのがわかります(図4)。穴が非常に小さい場合や、穴が完全に開いていない場合はわかりにくいことがあります。
OCT:網膜の断面を細かく観察できるので、黄斑部網膜の中央部がなくなっていたり、薄くなっているのがわかります(図5)。
図4 黄斑円孔の眼底写真
図5 黄斑円孔のOCT
図6 手術後のOCT
自然に穴が塞がることはほとんどありません。手術は硝子体手術で行います。まず、網膜の内側にある硝子体を切除し、直接網膜の黄斑に処置できるようにします。通常は、この段階でも非常に薄い硝子体の膜が網膜にべったりくっついているので、その硝子体膜をはがします。それだけで黄斑円孔が塞がる方もいますが、網膜が硬くなって穴が小さくならない方では、網膜の表面にある内境界膜(ILM)を特殊な色素で染色して見やすくしたうえで黄斑円孔の周囲のILMだけをはがします。こうすると穴が外側へ引っ張られなくなるので、穴が塞がりやすくなります。その後、眼内へ医療用ガスを入れて網膜を内側から膨らますようにします。こうすると網膜が眼球壁にぴったりと張り付くので、網膜の穴が塞がりやすくなります。ガスはゆっくり吸収されますので、数週間で自然と無くなります。
手術後は、網膜に穴が開いている部分(すなわち目の真後ろ)に確実にガスが当たるように、うつ伏せの姿勢をとります。穴が塞がったらうつ伏せの姿勢を取る必要はありません。手術後にOCTを撮影すると穴が塞がったのがわかります(図6)。