目の外の景色は、目の中の網膜に映って初めて自覚できます。網膜の中心部を「黄斑(おうはん)」と呼び、ものを見る細胞(視細胞)がたくさん集まっている部分で網膜の中でも一番重要な部分です(図1)。黄斑部網膜に異常が起こると視力に大きな影響が出てきます。
「黄斑前膜(おうはんぜんまく)」とは、黄斑部の網膜の手前に薄く透明なセロハンのような膜が出来る状態をいいます(図2)。網膜の前は網膜から見たら上の方になりますので、「黄斑上膜(おうはんじょうまく)」と呼ぶこともあります。
加齢によるものの他、網膜剥離や網膜裂孔の治療後や、その他の眼底の病気に続いて起こることがあります。
軽症の場合は、黄斑部網膜の前に透明なセロハン状の膜が張っているだけですので、自覚症状はありません。進行すると膜が厚くなり収縮してくるので、黄斑前膜にしわが寄ります。黄斑前膜は網膜ともくっついているので、黄斑前膜にしわが寄るとその後ろの網膜にもしわが寄ります。網膜が凸凹になるので、眼外の景色も歪んで網膜に映ります。ちょうど凸凹の壁に映画を映すと歪んで見えるのと同じ現象です。黄斑前膜が進行すると、文字や人の顔が歪んで見えて、視力も低下していきます。
黄斑前膜の影響の程度を知るために、視力検査を行います。裸眼視力だけではなく、矯正した視力も検査します。
歪みの程度を知るために、アムスラーチャート(図3)という方眼紙のような碁盤の目が印刷してあるものを見ていただき、線が歪んでいる範囲と程度を記入していただきます。
眼底検査をすると網膜の黄斑部を中心に半透明の膜があるのがわかります。眼底写真にも写ります。黄斑前膜の拡がりを調べます。
黄斑前膜やその下の黄斑部網膜の状態を知るために、OCT(光干渉断層計)撮影を行います(図4)。OCTは、赤外光で網膜をスキャンし網膜の断面像を知ることができる装置で、数分で検査が終了し、造影剤も使用しないので、患者さんの負担はほどんどありません。
放置して自然に黄斑前膜がよくなるのは5%くらいです。それ以外はゆっくり進行していきます。
黄斑前膜により、物が歪んで見えたり(変視症)、視力が低下して日常生活に不自由を感じるようになったら、黄斑前膜を硝子体手術で取り除きます。薬は効きません。まず網膜と黄斑前膜の前にある硝子体を切除します。そのあと黄斑前膜を細いピンセットでつかんでゆっくり網膜からはがしていきます(図5)。