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けんこう家族 第110号

第110号 平成25年10月1日発行

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気管支ぜん息 ~ヒポクラテスの時代からある病気~

東京逓信病院 病院長 平田 恭信

呼吸器内科医長
澁谷 英樹

はじめに

 気管支ぜん息が文献に現れるのは非常に古く、古代ギリシャの有名な医学者ヒポクラテスの時代(紀元前400年頃)にまでさかのぼります。日本での患者数は500万人といわれ、私たちにとって、非常に身近な病気といえます。日本では、現在でも1年間に約2,000人の方が気管支ぜん息によって亡くなっています。心臓の病気での死亡者数が14万人、脳血管の病気が10万人、がんが29万人と、これらのわが国での主要な死因と比較すると、気管支ぜん息での年間死亡者数ははるかに少ないです。そのため、“死に至る病”であるという実感がわかないのも事実です。しかし、死亡者数としては、世界的にみてもわが国ではまだまだ多いのが現状です。
 今回は、この気管支ぜん息についてお話しさせていただきます。皆さまの理解の一助になれば幸いです。

気管支ぜん息とは?

 気管支ぜん息は、空気の通り道である気道に炎症を持っていること(気道の慢性炎症)、そのために気道が健常者に比べて、さまざまな刺激に敏感になっていること(気道過敏性)、そしてその結果、気道が狭くなること(気道狭窄・気流制限)、これら3つの特徴を持っている病気です(図1)。気道に浸潤したリンパ球・好酸球・好中球・肥満細胞などのさまざまな炎症細胞と(図2)、それらの細胞から放出されるサイトカイン・ケモカイン・ロイコトリエンなどの化学物質が気道の炎症に関与することが分かっています。化学物質は気道の平滑筋を収縮させ、血管より水分を漏出させるので、それにより気道粘膜がむくみ、気道が狭くなります。同時に気管支腺の過形成を起こし、喀痰を増やします。その結果、狭くなった気管支の内腔に喀痰などの分泌物がつまり、息を吐くことが出来なくなり、咳や呼吸困難を起こします。長期間にわたり気管支ぜん息を持つ場合には、安定期においても気道の炎症は存在しており、その結果、気道上皮の下にある基底膜が厚くなり、基底膜下にコラーゲンが沈着し平滑筋も常に肥大するようになります(図2)。そして、気道が狭くなったまま元に戻らなくなってしまいます。この状態を気道のリモデリング(再構築)と呼びます。リモデリングが起こると気管支ぜん息は重症化・難治化します。


図1 気管支喘息 発病・憎悪のメカニズム


図2 気管支喘息における気道の病理所見模式図

1.症状

 繰り返し起こる咳、発作性の呼吸困難(息を吸うよりも吐くほうが苦しい)、胸苦しさ、喘鳴(息を吐くときに“ゼーゼー”、“ヒューヒュー”という音がする)、痰が出ることが特徴的です。1日のうちでも症状に波があることが多く、特に夜間や早朝に症状が出現することが多いです。また、季節の影響も受けやすく、朝晩の気温差が大きい季節によく出現します。統計的には、秋>春>冬>季節の変わり目の順に多く、夏は少ないという結果が出ています。発作がない状態では症状は消失しますが、重症ぜん息では常に症状が存在することもあります。さらに、発作が重篤になると横になれなくなり、会話も出来なくなります。

2.気管支ぜん息の危険因子(表)

 気管支ぜん息の危険因子は実にさまざまです。個体因子と環境因子が複雑にからみあって発病します。個体因子のうち、アトピー素因とはアレルゲン(アレルギーを生じる物質)に反応してIgE抗体を産生しやすい素因があることをいいます。危険因子のなかでもっとも強力な因子であると考えられています。性別では、小児ぜん息は男児に多く見られますが、成人ぜん息は女性に多く見られます。
 環境因子ですが、気管支ぜん息の発病に関わるアレルゲンで最も重要なものはハウスダスト、ダニであり、それ以外にカビ類、花粉、ゴキブリなどの昆虫、ペットなどがあげられます。解熱鎮痛剤として、よく使用されるアスピリンなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)によって重篤な気管支ぜん息発作が引き起こされることがあり、アスピリンぜん息といわれています。成人ぜん息の約1割にみられます。
 環境因子として最近注目されているのが、喫煙、そして大気汚染物質です。現在話題のPM2.5(直径2.5μm以下の超微粒子)のうち、特に自動車の排気ガスに含まれているディーゼルエンジン由来の微粒子(直径0.1~0.3μm)が気管支ぜん息の発病に関与していると報告されています。運動やアルコール、ストレスでも気管支ぜん息の症状が悪化することがあります。


表 気管支喘息の危険因子

気管支ぜん息の治療

 気管支ぜん息の治療薬は、長期管理のために継続的に使用する長期管理薬(コントローラー)と、気管支ぜん息の発作を抑えるために短期的に使用する発作治療薬(レリーバー)の2群に大きく分けられます。同じ薬剤でも、投与方法によりどちらの目的でも使用されます。今回は、長期管理の治療薬についてお話しします。
 気管支ぜん息の本態が気道の慢性炎症であることから、強力な抗炎症作用をもつ吸入ステロイド薬(商品名:フルタイド®、パルミコート®、アズマネックス®、キュバール®、オルベスコ®)が、軽症から重症に至る気管支ぜん息の患者さまに広く使用されています(図3)。気管支ぜん息治療の第一選択薬であり、かつ最も効果があり、経口ステロイド薬と比較して全身的な副作用が少ないのが特徴です。経口ステロイド薬(商品名:プレドニン®など)は、重症ぜん息において使用されることがあります。その他のコントローラーとして、気管支拡張作用を有する吸入薬(商品名:セレベント®)・貼付薬(商品名:ホクナリンテープ®)・経口薬(商品名:スピロペント®など)等の長時間作用性β2刺激薬や、テオフィリン徐放製剤(商品名:テオドール®、テオロング®など)、ロイコトリエン受容体拮抗薬(商品名:キプレス®、オノン®など)やその他の抗アレルギー薬、吸入抗コリン薬(商品名:テルシガン®など)、抗IgE抗体(商品名:ゾレア®)などがあります。先ほどもお話したように、吸入ステロイド薬が基礎になる治療薬ですが、吸入ステロイド薬のみで効果が不十分である場合には、他のコントローラーを1剤、あるいは複数併用します。最近では、吸入ステロイド薬と吸入長時間作用性β2刺激薬との配合剤も使用されています(商品名:アドエア®、シムビコート®)。治療により、症状・増悪がなく、運動を含め、健常人と変わらない日常生活が送れる状態に持ち込むことが最大の目標です。


図3 吸入ステロイド薬(喘息のくすり一覧、ライフサイエンス出版2013より)

おわりに

 以上、気管支ぜん息について、紙面の都合上、要点を中心にお話ししました。
 気管支ぜん息でお悩みの方は、どうぞ当院呼吸器内科にて、お気軽にご相談下さい。

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