一過性脳虚血発作(以下TIA)は文字通り、一時的に脳に血流が流れなくなり、神経脱落症状が現れる発作をいいます。以前は24時間以内に症状が消えるというのがTIAの定義でしたが、最近では持続時間は問われていません。画像診断の進歩により、24時間以内に症状が消えてもMRI拡散強調画像(DWI)を撮ると脳梗塞が見つかることが増えてきたからです。
2009年の米国心臓協会、脳卒中協会(AHA/ASA)の論文では、
「TIAとは脳、脊髄または網膜の局所的虚血による一時的な神経学的機能障害で急性梗塞を伴わないもの」と定義されています。
つまり、症状の持続時間とは関係なく、梗塞とTIAを別のものとして区別しているわけです。機能障害が短時間で回復したとしても、画像診断で梗塞巣が見つかったものは脳梗塞と診断する、ということです。
ではTIAがなぜそれほど問題にされているかというと、それがしばしば早い時期に脳梗塞に移行するからです。
いくつかの臨床研究の結果、TIAを起こした人の10-15%が3カ月以内に脳梗塞になり、その半数は2日以内に発症していることが明らかになりました。従来考えられていたよりも、はるかに早い時期に脳梗塞を発症することがしばしばある、ということです。
そのようなデータをふまえて、日本脳卒中学会では2009年発行の「脳卒中治療ガイドライン」で「TIAが疑われた場合にはただちに予防的治療を開始すること」を推奨しています(表1)。つまり、TIAを起こしたということは患者さんが脳梗塞の崖っぷちのところに立っているという認識です。これは脳卒中発症予防のためには重要な進歩といえるでしょう。
それでは、TIAの原因、症状と診断、治療についてみてみましょう。
症状は脳梗塞と同じです。手足や顔面の運動障害や感覚障害、言葉がしゃべりくにいなどです。症状の持続時間は5-10分程度が多く、ほとんどは1時間以内です。
特徴的なものとしては、一過性黒内障があります。これは眼動脈という目の網膜に血流を送る血管の血流低下によるもので、一時的に片目が見えなくなります。黒内障といっても真っ暗になることも、白っぽく見えなくなることもあります。この場合には同側の内頚動脈狭窄が強く疑われます。
TIA患者の脳梗塞発症リスクを判断するため、ABCD2スコアが使われています(表2)。高齢であるほど、血圧が高いほど、症状が強いほど、持続時間が長いほど、また糖尿病があることなどで脳梗塞発症リスクが高まります。
ABCD2スコアが3点以上の場合には入院して治療を開始するべき、とされています。
A | Age(年齢) > 60歳 (1点) |
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B | Blood pressure(血圧) > 140/90mmHg (1点) |
C | Clinical feature(臨床像) > 半身まひ (2点)、麻痺のない言語障害 (1点) |
D | Diabetes(糖尿病) (1点) |
D | Duration of symptoms(持続時間)(10-59分は1点、60分以上は2点) |
血圧測定、血液検査、心電図、MRI、MRA、頸動脈エコーなどを行い、TIAを起こすに至った原疾患を探します。
動脈硬化がつよく内頸動脈や頭蓋内主幹動脈に狭窄がある場合には、血栓がはがれて飛んで、末梢に詰まった可能性が高いと考えられます。
心電図で心房細動がある場合には心原性脳塞栓症を起こす可能性が高いと考えられます。
基本は内科的治療です。動脈から血栓が飛んだ可能性が高い場合にはアスピリンなどの抗血小板薬を、心房細動があり塞栓症が疑われる場合にはワーファリン®などの抗凝固薬を投与します。同時に高血圧、糖尿病、脂質異常症などがある場合にはそれらの疾患に対する治療も行います。
頸動脈に高度狭窄がある場合には頸動脈内膜剥離術(CEA)や頸動脈ステント留置術(CAS)を考慮します。CEAは症候性で70%以上の狭窄がある場合に適応があります。CASは高齢やCEAを行うにはリスクが高い場合に行います。反対側の頸動脈が詰まっている場合、解剖学的にCEAでは到達しにくい場合、などに適応があります。
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