月経随伴性気胸とは、月経のある女性に特有の病気です。気胸とは肺に穴が開いてしまい、肺の外側の胸腔内に空気が漏れて肺がしぼむ状態で、男性に多い疾患ではありますが、女性にも起こり得ます。
月経随伴性気胸は、子宮内膜症の組織が肺や胸腔内や横隔膜といった胸を構築する場所に存在してしまうことで子宮内膜症と同様に女性ホルモンの影響を受けて気胸を発症します。
子宮内膜症と聞くと、婦人科の疾患というイメージを持たれるかと思いますが、「子宮内膜症」とは子宮内膜の組織が子宮の外に発生する疾患の総称です。卵巣嚢腫(チョコレート嚢胞)も卵巣という子宮外の臓器に子宮内膜が存在するため子宮内膜症の1つになります。同様に胸の中に子宮内膜の組織が認められることがあります。頻度については稀であるため「希少部位子宮内膜症」とされ、専門的には「胸腔子宮内膜症」、それに伴う気胸を「胸腔子宮内膜症性気胸」と呼びます。
この疾患が、以前より月経に一致して発症することが多かったため月経随伴性気胸と呼ばれており、今もなお月経随伴性気胸という呼称をされることが多いため、本文では月経随伴性気胸と呼ばせていただきます。
月経随伴性気胸は、月経のある女性の5-15%程度に認められます。発症年齢は40歳前後と一般的な子宮内膜症の30歳前後から高齢にシフトしています。約9割は右側に起こりますが、稀に左側にも気胸は発症します。
いくつかの説が提唱されていますが、はっきりしとした原因は未だ解明されていません。
一般的な気胸(胸痛・胸部違和感・息切れ)の症状や血胸・血痰など。
月経時に発症した場合、月経が終了するくらいに気胸が改善することもあるため、受診されず気づかれないこともあります。
また、月経中や月経前後の体調不良は、月経困難症と思って過ごしてしまい「胸の疾患」と思われる方は少ないかもしれません。
実際に、月経随伴性気胸の診断後に「思い返すと何年も前から時々同じ症状がありました」という方も多いです。繰り返し胸の違和感や胸痛・息が吸いづらいなどの症状がある場合は、月経随伴性気胸も疑われますので呼吸器外科・呼吸器内科などを受診するようにしましょう。
日本では以前より
患者さんが増えるにつれて、月経に一致しない排卵期や月経間周期に発症する方も見られるようになり、現在は必ずしも1の基準は満たさないこともあり、ホルモン周期が変動する際に発症している可能性が考えられます。
月経随伴性気胸の方は、婦人科疾患の治療歴がある方や一般的な子宮内膜症(腹部)も併発していることがあるため、症状や婦人科治療歴の有無から臨床的に診断されることもありますが、最終的な診断には手術で胸腔内を確認することをおすすめします。
また、当院では月経随伴性気胸が疑われる方には、早い段階で当院の婦人科に相談させていただき協力して治療を進めていきます。
月経随伴性気胸の方の手術所見では、横隔膜の菲薄化や小さな穴を認めることがあります(写真2・3)。また、肺(写真4)や胸壁に子宮内膜症の所見が認められる方も併せて胸腔内に所見がある方が約50%、肺嚢胞が認められる方は約20%、約30%は原因不明とされています。
病変が認められる場合は、手術で組織を採取し病理組織検査で子宮内膜症の存在を確認しますが、検査では認められない場合もあります。病理組織検査で確認できなかった場合でも、手術所見や繰り返す症状を合わせて治療を行うことをおすすめします。
画像1 正常な横隔膜
画像2 横隔膜の病変
画像3 横隔膜の病変
画像4 肺嚢胞と子宮内膜組織
月経随伴性気胸は、女性ホルモンに影響されるため、手術のみやホルモン療法のみでは再発率が高いのが現状です。手術療法は呼吸器外科で行い、ホルモン療法は婦人科と協力して行っていきます。
ホルモン療法の目的は、卵巣からのエストロゲン分泌量を減少させることで、子宮内膜病変を退縮させることです。ジェノゲスト療法やGnRHアンタゴニスト療法やGnRHアゴニスト-ジェノゲスト順次投与療法など有用な薬物療法とされています。
女性のライフステージに合わせた治療が必要であり、妊娠・出産・また閉経の時期のホルモン療法の継続や中止に関しても婦人科の先生と相談しながら継続した治療を行う事が目標になります。当院は婦人科医師と協力して早い段階から相談できる環境を整え、患者さんのホルモン治療に対する不安を軽減しながら治療を開始させていただきます。
当科では全身麻酔の胸腔鏡下手術を行っています。気胸側の側胸部に1.5cm、7mm、7mmの小さな穴をあけてカメラや自動縫合器を挿入します。自然気胸と同様に肺嚢胞が認められた場合は切除や焼灼します。胸腔内の子宮内膜症病変は凝固焼灼します。
横隔膜に小さな穴が複数開いていることが多いために、お腹との交通を防ぐために横隔膜を被覆材で広範囲に被覆します。肺全体も全体をカバーリングすることで、新たな子宮内膜組織の生着を予防し、胸膜を厚くし穴が開きにくい状態にして気胸の再発を軽減できるように処置します。
手術時間は1時間程度、体の負担の少ない低侵襲な治療を心がけています。
一般的な子宮内膜症は、女性の社会進出や晩産化・少子化が顕著となったことによる月経回数の増加により罹患率が上昇しており、婦人科では最も診療する疾患となっています。
子宮内膜症の増加に伴い、月経随伴性気胸も増加傾向にあります。気胸を発症すると、検査結果次第では突然入院が必要になることもあります。
また、再発率の高い月経随伴性気胸では、ライフスタイルの変更が必要となってしまったり、休職回数が増えてしまい、やむをえず離職や転職をされてしまう方もいらっしゃるようです。私たちはこのような状況を起こさず、患者さんのQOL(生活の質)を維持できる治療法を提案できるよう心掛けています。
当科では、日本気胸嚢胞性肺疾患学会・日本エンドメトリオーシス(子宮内膜症)学会の会員が在籍しています。まだまだ稀な疾患ではありますので学会で刷新される治療方針を踏まえながら、患者さんと相談しながら治療を進めさせていただきます。
月経随伴性気胸で困っている患者さん、また相談のある方、気軽に相談をいただければと考えております。
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