日本でよくみられるリケッチア症には、つつが虫病と日本紅斑熱があります。
リケッチアとは、細菌の一種です。ただ、細菌によく効くセフェム系抗菌薬などは全く効きません。また、全国で年間それぞれ500例程度(2023年はつつが虫病444例、日本紅斑熱501例・暫定値)の報告しかありません。この2つの疾患を見たことがないドクターもいるはずです。
リケッチアとは、世界各地の自然界に分布し、ダニ類、ノミ類、シラミ類などの媒介動物(ベクター)を介してヒトに感染します。細胞内でのみ増殖可能な偏性細胞内寄生細菌であり、人工培地では増殖できません。リケッチア目・リケッチア科に属する病原体としては、前述したとおり、日本では、つつが虫病リケッチア、日本紅斑熱リケッチアなどがあります。
2つの疾患には、共通点があります。それは、野山などに患者さんが行ったことがあること、皮膚をよく探せば、刺し口があることが多いことです。つつが虫病は主に体幹に、日本紅斑熱は四肢に皮疹が認められる傾向があります。
この文章が、患者さんの診断の役に立てばうれしいです。
つつが虫病は、細菌の一種であるつつが虫病リケッチアによる感染症です。
北海道を除く全国で発生が見られ、新潟県では春~初夏(5~7月)及び秋(10月・11月)に報告数が多い傾向があります。かつては山形県、秋田県、新潟県などで夏季に河川敷で感染する風土病でしたが(古典型)、戦後新型つつが虫病の出現により北海道を除く全国で発生がみられるようになりました。
また、アジア、東南アジアにも広く存在しており、輸入感染症としても注意が必要です。
年 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
---|---|---|---|---|---|
新潟 | 13
|
7
|
4
|
6 | 1 |
全国 | 538
|
544
|
492
|
444 | 102 |
病源体は、つつが虫病リケッチア(Orientia tsutsugamushi)です。
リケッチアを保有したつつが虫(ダニの一種)の幼虫に刺されることによって感染します。
ヒトからヒトへうつることはありません。
参考文献3から引用
典型的には、5日~14日の潜伏期の後に、全身倦怠感、食欲不振とともに頭痛、悪寒、発熱などの症状が現れます。
数日後より、体幹部を中心に発しんが現れ、リンパ節の腫れを伴うこともあります。
疑ったら、血清診断で診断することができます。日本では、Gilliam、Karp、Katoの3血清型は商業的検査機関で検査することができます。他にも、Irie/Kawasaki、Hirano/Kuroki、Shimokoshiなどの血清型があり、各地域での流行状況に合わせた血清型の抗原を使用することが推奨されています。最寄りの保健所を通して、地方衛生研究所に依頼することができます。
参考文献3から引用
早期治療が極めて重要であり、本症を疑ったら直ちに治療を開始します。
抗菌薬の第1選択はテトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)です。クロラムフェニコール、アジスロマイシン、リファンピシンも効果があります。
診断は、病源体の検出あるいは抗体検査などによります。
発症の1~3週間前に、流行地への旅行歴、もしくは野山や河川敷などでの活動歴があれば本症が疑われます。痂皮を伴う典型的な「刺し口」を証明するのが診断のポイントです。刺し口は皮膚の柔らかい隠れた部分にみられますが、見つからない場合もあるので注意が必要です。
感染症法では、四類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄の保健所へ届け出ることが義務づけられています。
※ダニに刺されている場合は、早期に除去することが重要で、早ければ病原体が体内に注入されることを防げる場合もありますので、皮膚科で除去してもらうことをお勧めします。自分でダニの体をつまんで引き抜こうとすると、病原体を自分の体内に注入してしまったり、ダニの頭部が皮膚に残ってしまうことがあります。
刺し口。患者さんにも協力してもらい、身体中を探すことで見つかることが多いです。
刺し口の画像を提供してくださった馬原文彦先生から以下のコメントをいただきました。
「ツツガムシは非常に小さいので、局所で増殖してからリンパに乗って全身に拡がります。だから所属リンパ節腫脹や肝脾腫が多く、潜伏期も長くなります。一方、日本紅斑熱はマダニだから結構大きく血管に直接入るので、刺し口も小さいし潜伏期も短くなります。」
参考文献3から引用