前立腺癌発症の初期段階においては、前立腺癌に特有の症状はありません。ただし、前立腺肥大症に関連した症状(頻尿、排尿困難、尿失禁など)を伴うことがあります。進行した段階では、血尿や転移に伴う疼痛などの症状が現れます。
当科では排尿障害や検査値異常などで受診された50歳以上の男性患者さんに対して、「前立腺セット」という検査を行います。「前立腺セット」には、採血検査(前立腺特異抗原(PSA)の測定)、腹部超音波検査(前立腺、膀胱、腎臓をチェックします)、直腸診(肛門に指を挿入して前立腺の大きさや硬さをチェックします)、尿流検査(排尿の勢いや残尿量を調べます)、尿検査(尿定性・尿沈渣)、排尿質問票への記載、といった検査が含まれます。検査は2-3時間程度で完了します。これらの検査を集中的に行うことで、前立腺肥大症や過活動膀胱、前立腺癌など様々な疾患の診断を行っています。
採血検査で前立腺特異抗原(PSA)の数値が4.1ng/mL以上または直腸診で前立腺に硬結を触れるなどの所見が得られた場合は、前立腺癌の疑いあり、と判断しています。その場合は、前立腺MRI検査で癌病巣の局在を確認し、最終的な病理診断を得るために「経直腸的前立腺針生検」という生体検査を受けていただくようにお勧めしています。
当院では、2泊3日の日程で「経直腸的前立腺針生検」を行っています。検査は手術室で腰椎麻酔のもと実施しています。
午前10時に入院。看護師からのオリエンテーション(諸情報の確認や入院生活の説明)、薬剤師による薬剤チェック、担当医からの「経直腸的前立腺針生検」に関する説明、麻酔科医による診察があります。午後9時以降は絶食になります。
午前中に体調をチェックし、水分補給のための点滴を開始します。午後2時頃から順番に手術室へお一人ずつご案内します。手術室では麻酔をかけてもらい、「経直腸的前立腺針生検」を行います。検査自体の所要時間は15-20分程度で、合計12本の組織を採取し、病理診断科に提出します。検査終了後は麻酔の効果が醒める2-3時間程度、病室のベッド上で安静にしていただきますが、その後は歩行や飲水が可能になります。午後6時頃には夕食を召し上がっていただきます。当院では術後に膀胱留置カテーテルは入れていません。
「経直腸的前立腺針生検」に関連する副作用(血尿、発熱、排尿障害)の程度を確認し、問題が無ければ午前10時頃に退院となります。病理検査の結果は1週間程度で判明します。次回の外来受診時に診断結果を説明させていただきます。
前立腺癌と診断された場合、病気の拡がりを確認するために腹部CTと骨シンチグラフィーという二種類の画像検査を行います。これらの検査によって病期(病気のステージ)が決まります。病期や病理検査所見、年齢や合併症などを考慮して治療法のご提案をさせていただきます。
治療には様々な方法があります。手術、放射線治療、ホルモン治療が前立腺癌治療の三本柱です。比較的おとなしい癌が少数検出され、前立腺特異抗原(PSA)の数値が10.0ng/mL未満の場合は、PSA監視療法という定期的にPSAを測定して1-3-5年後に「経直腸的前立腺針生検」を行う方法もあります。担当医とよく相談して、ご自分に最適な治療法をご選択ください。
当科では、放射線科と協力して強度変調放射線治療(IMRT)を行っています。
コンピューター制御で多方面から強弱のついた放射線を腫瘍へ最大限に当てます。従来の方式と異なり、前立腺と癌にはより強力に、周辺の膀胱や直腸には極力当たらないように放射線を照射することができます。これにより、副作用が少なく、より強力な放射線治療を行うことができます。
IMRTは治療完了まで約2か月かかりますが、毎日毎日、放射線を計画通りに、正確に当てなければなりません。しかし、その日の姿勢やむくみ、腸管や膀胱の膨らみなどによって、標的である前立腺の位置は体内で微妙に変わってしまいます。
そこで、前立腺内に、VISICOILという金でできた指標(マーカー)を留置します。その位置を毎回の照射の際に確認することで、より正確に計画通りに放射線を当てることを可能にします。このマーカーは、人体に安全な24金でできています。とても柔らかく、人体に刺激を与えることもほとんどありません。留置にあたっては、手術室にて麻酔をかけた上で、超音波検査機で見ながら前立腺に針を刺して留置します。