近年、胃がんの早期発見の必要性について多くの国民の方々の認識が高まったことにより健康診断や病院で胃の検査を受ける方が増え、比較的小さくまだ早期といえる段階での胃がんが見つかることは決して珍しくありません。胃がんは胃の内面を覆っている粘膜の細胞ががん化して発生してくるのですが、一般に早期胃がんとは胃の粘膜かその下の粘膜下層までにとどまる状態のもの(大まかに言えば胃粘膜の表面から浅い部分までの範囲にあるもの)を指します。特に検査でたまたま見つかるような病変の多くは粘膜内にとどまるがん(粘膜内がん)であり、この状態ならリンパ節転移の可能性がほぼないことがこれまでの統計で確認されています(転移とはがんが胃から他の臓器に移ってゆく進行した状態です)。
よって粘膜内がんであれば、内視鏡的切除により取り切れれば根治的治療が可能であり、現在主流となっているのが我が国で開発されたESD(Endoscopic submucosal dissection)という治療法です。
ESDの方法について簡単に説明いたします(下図及び写真参照)。一般に粘膜内がんであれば、胃壁の病変直下の浅い層(粘膜下層)に生理食塩水やヒアルロン酸という液体を注射針で注入すると、その液体の体積により病変はあたかも焼いた餅が膨らむように隆起してきます(下図①)。このようにした状態で、高周波電流を利用した電気メスを用いてまず病変の周囲を浅く切開し(下図②)、さらにITナイフなどの専用の処置具を用いて病変の端からその下の粘膜下層を丁寧に高周波電流で焼き切りながらはがしてゆきます(剥離)。途中出血が見られることがしばしばありますが、処置具で電気的に止血しながら処置を続け、最終的に病変より一回り大きな粘膜を病変ごとはがし取ってしまう方法です(下図③)。このような方法のため、病変を確実に含んだ十分な範囲の粘膜を一括で切除できる利点があり、この検体を詳細に病理検査(細かい切片の顕微鏡標本を作製し、がんの確定診断と大きさ、粘膜からの深さ、血管やリンパ管にがん細胞が入っていないかなどを確認)することで最終的に転移のない早期胃がんであったか、及び根治的に切除できたと考えられるかを確認します。
図:ESD治療の流れ
1.淡く発赤した早期胃がん(写真中央)
2.薬液を注入し隆起させたところ(先に病変の周囲を針先で焼いてマークをし、切除範囲を明瞭化させてあります)
3.病変の周囲を切開したところ。この後、丁寧に粘膜下層の組織を端から剥離してゆきます。
4.がんを含んだ範囲の組織を切除し終わったところです。
5.切除した組織のホルマリン固定病理標本。各々の線で組織を切り顕微鏡標本を作製し観察したところ、赤い部分にがんが含まれていました。
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