図1.手術用顕微鏡の全景
眼科の手術では、眼科用手術顕微鏡を使って手術する場所を拡大観察しながら手術することが多く、当院では眼科手術の95%以上に眼科用手術顕微鏡を用いて安全確実な手術を行っています。
手術用顕微鏡は、血管外科・脳外科・整形外科などでも使われていますが、これらの領域で行われているのは術野を照明して拡大観察することが目的の顕微鏡手術です。ところが、眼科領域の顕微鏡手術では、単に拡大と照明だけではなく、眼科手術に特有の透明な膜がはっきりと見えるように手術用顕微鏡を用いるので、他領域の手術用顕微鏡よりも数段高い性能が要求されます。しかし、そのような高性能の手術顕微鏡を作るのは技術的に非常に難しいため、他の診療科用の手術顕微鏡を作っているメーカーはたくさんありますが、眼科医の使用に耐える手術顕微鏡を作れるメーカーは世界でも数社しかありません。
今回当院が導入した眼科用手術顕微鏡は、その中のトップメーカーであるドイツのカールツァイス・メディテック社製で、Lumera700(ルメラ700)という同社製眼科用手術顕微鏡の最上位機種です。
眼科の手術では、半透明の濁りを取り残したりすると術後の視力回復が不十分になることがあります。その為、眼科用手術顕微鏡はこのような半透明の小さな濁りでもはっきり見えるように、照明光を網膜に反射させてその反射光の中に微細な濁りを浮かび上がらせる「徹照(てっしょう)」という方法を用います。徹照法で眼内を照明するには、顕微鏡のレンズなどの光学系と照明系の両方に非常に高い精度が要求されます。これは眼科の手術だけで用いられる特殊な方法で、他科の手術用顕微鏡では実現できない極めて高度な機能で、顕微鏡メーカーの技術力の差が一番出てくる部分です。
手術時には狭い眼内で周囲の組織に器具が当たらないように操作する必要があります。そのためには診ている術野が立体感を持って確認できなくてはなりません。「徹照」と「立体視」は裏腹の関係にありますので、両者をバランスよく実現できる顕微鏡が理想の顕微鏡です。
どれだけ細かいものがはっきり見えるかは、解像度によって決まります。これは手術用顕微鏡に使われているレンズの性能によります。
細かいものがくっきり見えても、見える範囲が狭いと周りの組織を傷つけることになります。特に硝子体手術の時には、広い範囲を立体的にはっきり観察しながら手術する必要があるので、ルメラ700ではRESIGHT700(リサイト700)という広角眼底観察システムが内臓されています。必要な時には手前に引き出して使います。(図2)
図2.広角眼底観察システムを展開したところ
Lumera700が持っている多くの機能のうち、世界で初めて実用化されたものが、CALLISTO eye(カリストアイ)と呼ばれる手術支援システムです。乱視が強い患者さんの白内障手術時には、乱視矯正用の眼内レンズを挿入するのですが、患者さんの乱視の軸に正確に合わせて眼内レンズを固定しなければなりません。カリストアイを使うと外来で測定した乱視のデータが顕微鏡に投影されて、眼内レンズの軸をどこに合わせればいいのか示されますので(図3)、眼内レンズによる乱視矯正がとても正確にできるようになりました。
図3.眼内レンズの軸の表示
ここまで本文です。