網膜の中心部に異常が起きる加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)では、視力はしだいに低下していっても、以前はよい治療法がありませんでした。しかし 2004年以降は、網膜の中心部をターゲットにしながらも悪い部分だけをレーザーで治療することができる、光線力学的療法(PDT)が登場し、加齢黄斑変性の治療法が飛躍的に変化しました。
加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)に対する比較的新しい治療法で、2004年5月に保険適用となりました。光に反応する「ビズダイン(ベルテポルフィン)」という薬剤を腕の血管から注射したあと、網膜の中心部のいたんだところにレーザー光を照射する、という2段階で行なう治療法です。ビズダインは悪い血管(新生血管)に集まる性質があり、特殊な波長のレーザー光に反応して周りの細胞を傷つける活性酸素を発生するので、周囲の正常な組織へのダメージを最小限に抑えながら、レーザーの効果が新生血管だけに強く起こり、その結果としてこの病気の原因である新生血管を閉じさせることができる治療です。
診断には、通常の眼底検査に加えて、網膜と脈絡膜に対する蛍光眼底造影検査が必要です。当院で使用している、造影検査器械は、通常の眼底カメラに比べてまぶしさが少なく、なおかつ1回の検査で、網膜と脈絡膜の2種類の造影を同時に撮影することができる、HRA(ハイデルベルグレチナアンギオグラフ)という器械です。そのため、繰り返し造影検査が必要となる黄斑変性症の患者さまでも、まぶしさなどの苦痛が比較的少なく検査を受けていただけています。
光線力学的療法の適応となるのは、網膜の中心に新生血管がある場合で、それ以外にも新生血管の大きさや病気の活動性など、治療の適応を決める際には様々な情報を集め、よく患者さまとも相談させていただいてから、PDT治療の適応を慎重に決めています。PDT治療は、PDT認定医によって行なうことが義務づけられており、当院でもPDT認定医が診断および治療を担当させていただきます。
瞳孔を開く薬を点眼後、「ビズダイン(ベルテポルフィン)を10分間かけて前腕部の静脈から注射したあと、くろめ(角膜)の上にコンタクトレンズをのせて、網膜の黄斑部を含む病気の場所に、特殊なレーザー光を83秒間照射します。このレーザー光は発熱が少なく、正常な網膜へのダメージが少なくてすみます。
この治療は新生血管が閉じるまで繰り返し行なうことが必要で、3ヶ月ごとに蛍光眼底造影検査を行い、治療の必要性を調べ、再治療の必要があれば繰り返し行います。日本人での平均施行回数は、約3回です。(新生血管を閉じさせるのに、約3回の治療が必要でした。)
この治療でもっとも注意しなくてはならないことが、「ビズダイン(ベルテポルフィン)」が体内に残っている間に皮膚や眼が日光などの強い光に反応して起きる、光線過敏症(こうせんかびんしょう)です。「ビズダイン(ベルテポルフィン)」を注射してから48時間は、体内に薬が残っており、もっとも光線過敏症がおきやすい時期であるため、初回治療後48時間(3日間)は入院が必要です(厚生労働省の指導による義務)。そのため当院でのPDT後の入院では、安心して治療後過ごしていただけますように、直射日光やネオンライトがあたらないよう厚手のカーテンを用意し、また照明器具を調整し、蛍光灯だけにしたテレビ・トイレ付きのPDT療法専用個室を準備させていただいております。入院中はテレビは通常通りに見ていただくことができ、蛍光灯は代謝を早めるために積極的に浴びていただくことができます。退院後も治療5日目までは、できるだけ日中の外出を避けて強い光を浴びないように注意が必要です。
2回目以降の治療では入院の義務はありませんが、患者さまのご希望があれば同様の個室を準備させていただいております。また退院後も治療5日目までは、患者さまご本人に対してこのような注意を促し、またご家族など周囲の方へ配慮を続けていただけるように、手首にリストバンドを着用していただいております。
通常、加齢黄斑変性は放置すると視力が徐々に低下してしまう病気ですが、日本で行われた臨床試験(JAT スタディ)の結果では、PDT治療1年後で、視力不変が66%、視力改善が20%、視力悪化が14%であり、視力を維持できた方が86%もおられました。このようにPDT療法の目的は、新生血管を閉塞させることにより、更なる視力低下を防ぐことであり、大きな視力の向上を期待する治療法ではありません。
保険診療ですが、初回は入院治療が義務づけられていますので、この治療にかかる費用は、ビズダインの薬剤費およびレーザー治療費用と、個室料金を含む入院費用の合計となります。1割負担の方では10万円程度、3割負担の方で18万円程度となっております。また高額療養費制度が適用される場合がありますので、詳細は医事課にお尋ねください。
加齢黄斑変性は、放置すると視力が低下し、日常生活が著しく不自由になる可能性がある病気です。しかし今までは網膜の中心に病気があるということで、よい治療法がなく私たち眼科医も大変困っている病気でした。
最近ものがゆがんでいる症状があらわれた患者さまは、放置せずになるべく早めに眼科を受診し、あまり強い視力低下が起きる前に適切な治療をうけられることをお勧めします。また、今まで、網膜の中心部にある異常だから治療ができない、という説明を受けたことがある患者さまでも、再度検査をすることによってさらに視力を悪化させるような病変が見つかれば、この治療を行なう必要がある場合があります。よく主治医と相談して病気の状態や現在受けることができる治療法についてお聞きください。どんな治療法であっても患者さまがよく納得されてから受けていただけるようにと、スタッフ一同考えております。PDT治療に関するご質問などは、眼科外来にお尋ねください。
ここまで本文です。