スポーツ中のけがなどで、膝関節や足関節の軟骨が裏に薄く骨をつけた状態で剥がれ落ちるような損傷をおこすことがあります。離断性骨軟骨炎といいます。また、軟骨片の裏に骨をともなわないこともあり、その場合には軟骨損傷という病名になります。いずれも損傷部位の軟骨が欠損することでスムースな関節運動が阻害され、痛みや関節に水がたまるなどの腫れを引きおこし、スポーツ活動や日常生活でも支障を来します。また、長期的には変形性膝関節症へ移行するリスクが高くなります。
診断はMRIで軟骨層の欠損がみられることで可能(図1)ですが、確定診断は関節鏡(図2)によります。
図1 軟骨損傷のMRI像の一例
赤矢印で囲まれた部分が軟骨損傷を示す。
図2 図1と同じ患者さんの関節鏡視所見
赤矢印で囲まれた部分が図1のMRI像で
示されている軟骨損傷の部位に
一致しており、確定診断した。
保存療法(手術をしない)で経過をみることも状況によってはありますが、損傷の部分が大きかったり、大きな荷重がかかる部分であったりする場合には手術療法は必須です。関節鏡で確定診断をつけた後、直ちに手術治療も行います。手術法には整復内固定術、マイクロフラクチャー法、骨軟骨移植術(MOSAICPLASTY、OATS®など)、自己培養軟骨移植術(JACC®)などがあり、東京逓信病院整形外科では患者さんに適した治療法を選択し、行っています。
はがれた軟骨片の裏面に骨組織がついている場合(骨軟骨片といいます)、母床をスムースに郭清(きれいに取り除くこと)した後、骨軟骨片をできる限り元の位置に戻して吸収性のピンや骨釘(自分の骨を釘のように細く形成したもの)、あるいは骨軟骨柱(軟骨付きの骨柱)で固定します(図3)。元々あった組織を再固定するため適合性がよく、6か月程度で元のスポーツにfullに復帰可能です。骨軟骨片の状態が良い場合、最優先で選択すべき治療法です。
図3 骨軟骨片の整復内固定術直後の鏡視所見
左は剥がれた骨軟骨片、
右は吸収ピンで固定した直後の鏡視所見。
この患者さんは6か月で高校サッカー部
活動に完全復帰した。
剥がれた骨軟骨片が粉々に割れてしまっている場合、あるいは遊離した軟骨片の裏に骨がついていない場合、上記のような再固定術は施行できません。そのような場合の一つの方法として、損傷部位の母床から深層(骨髄といいます)に向かってたくさんの深い穴を穿孔するのがマイクロフラクチャー法です(図4)。骨髄から幹細胞という関節軟骨に分化する可能性のある細胞を病変部まで誘導することが目的です。足関節で損傷の範囲が狭い場合には有効とされていますが、膝関節の場合などで損傷範囲が広い場合は効果が不確実です。
図4 マイクロフラクチャー法
左:マイクロフラクチャーを鏡視下に施行。
右:その後、骨髄からの出血
(幹細胞の病変部への誘導)を確認した。
骨軟骨片の整復内固定術ができなかった場合に選択される術式です。荷重があまりかからない部分から軟骨とその下層の骨をcylinder状に採取し(骨軟骨柱といいます)、病変部母床に径を合わせた孔を穿ち、そこに骨軟骨柱を挿入固定します。移植した骨軟骨柱の軟骨表面と周囲の関節軟骨面との高さを同じにすることで関節軟骨面をできる限りスムースに再現します。関節軟骨のみの移植では強固な固着はおこらないのですが、骨軟骨柱移植では下層にある骨組織が癒合します(骨折で骨癒合するのと同じです)(図5)。骨軟骨柱の採取本数に限界があるため、治療できる病変部の広さにも限界がありますが、スポーツ復帰を含め成績は良好で、スポーツ復帰は約6か月です。
図5 骨軟骨移植術直後の鏡視所見
隙間も時間とともに埋まり、
きれいな関節面が再生される。
いろいろな研究機関で関節軟骨再生医療の研究が盛んになされていますが、現在保険が適応され、臨床に使用可能である日本で唯一の関節軟骨再生医療がJACC®です。自分の関節軟骨を少量採取し、そこから関節軟骨細胞を単離後、アテロコラーゲンという物質の足場内で3次元的に培養したものです(図6)。広島大学で開発され、J-TEC社(http://www.jpte.co.jp/index.html)が再生関節軟骨の作成をおこなっています。手術は2度必要で、1度目は関節鏡下に関節軟骨採取を行い、その後再生関節軟骨を作成、4週間後に2度目の手術で移植します(図7)。移植した後もその部位でリモデリングし、さらに成熟して関節軟骨としての強度を獲得するまで約1年の時間を要します。従ってスポーツ復帰には1年を要します。
骨軟骨移植術よりも病変が広い場合でも治療可能であることが最大の利点です。一方、この治療は定められた基準を満たし、研修の修了や届出など、準備が整った医療機関でのみ行われています。東京逓信病院整形外科は本治療を行うことができる機関の一つです。
なお、変形性膝関節症の患者さんには本治療法は適応されません。
(上)図6 自分の関節軟骨細胞から4週間でできあがった再生関節軟骨
移植術直前の写真。
(下)図7 再生関節軟骨移植術の術直後
再生軟骨は骨膜のパッチで覆われ、この場所で徐々にリモデリングし、成熟してゆく。
東京逓信病院整形外科では、離断性骨軟骨炎や軟骨損傷の患者さんに対して、病変部の状態、大きさなど個々の患者さんの状況に応じて適切な治療法を選択しています。場合によっては複数の治療法を組み合わせて行うこともあります。手術後のリハビリも治療法、および患者さんの状態により異なります。これまでの経験をもとに、我々は術後リハビリまで含めて適切な治療を提供できているものと自負しています。
離断性骨軟骨炎や関節軟骨損傷でお困りの患者さんは是非、東京逓信病院整形外科外来医師までご相談ください。