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ホーム  診療科のご案内  神経内科  筋強直性ジストロフィー
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筋強直性ジストロフィー

筋強直性ジストロフィーとは

 筋ジストロフィーとは、何らかの遺伝子変異が原因となり、筋肉を構成するタンパク質が正しく機能しなくなった結果、筋肉が壊れてしまう疾患の総称です。このページで紹介する、「筋強直性ジストロフィー(Myotonic Dystrophy)」は、成人の筋ジストロフィーの中で最も多い遺伝性の疾患です。患者数は10万人あたり7人程度(日本に10,000人程度の計算になります)と推計されており、原因となる遺伝子によって1型と2型に分類されますが、日本ではほとんどが1型であるため、ここでは筋強直性ジストロフィー1型について説明します。

筋強直性ジストロフィーの症状

 筋強直性ジストロフィーの症状は、①筋肉の萎縮と筋力低下、②ミオトニア(筋強直現象)、③多臓器障害の3つに大きく分けられます。

①筋肉の萎縮と筋力低下

 顔や喉、手足の筋肉など様々な部位で筋肉が壊れて萎縮してしまうため、今まで保てていた筋力が保たれなくなり、「ものが噛みにくい・飲み込みにくい」「ペットボトルの蓋が開けにくい」「つまづきやすい」などの症状が現れます。また、筋強直性ジストロフィーの患者さんは、おでこが禿げ、眼の周りの筋肉が痩せて瞼が下がり、ものを噛む筋肉が痩せて顔の下半分が細くなるなどの特徴的な顔貌をしていることが多いとされています(斧上顔貌と表現されます)。

②ミオトニア(筋強直現象)

 筋強直性ジストロフィーに特徴的な症状で、筋肉に刺激が加わった際に生じる”こわばり”のことです。例えば、手をぎゅっと強く握ると、その直後に手を開くことが難しくなったり(把握ミオトニア)、診察用のハンマー(打鍵器)で舌や親指の付け根(母指球)を叩くと、筋肉が収縮して勝手に動いてしまったり(叩打ミオトニア)します。このため、上手く筋肉が動かせず、喋りにくい、歩き出しにくいなどの症状が出現します。

③多臓器障害

 筋強直性ジストロフィーの患者さんは筋肉のみならず、体中の様々な臓器に障害をきたすことがあります。これまで報告されている症状は下記の通り実に多様で、合併症に応じて各臓器の専門家にも検査・治療をしてもらう必要があります。

◆筋強直性ジストロフィーの主な合併症◆

  • 呼吸器症状(呼吸筋麻痺、排痰能力低下、睡眠時無呼吸)
  • 心機能異常(不整脈、心筋障害)
  • 中枢神経異常(認知機能低下、性格変化、日中過眠症)
  • 消化器症状(消化管拡張、便秘、下痢、腸閉塞、肝機能異常、胆石症)
  • 眼症状(白内障、網膜色素変性症、眼瞼下垂)
  • 耳鼻科症状(難聴、中耳炎、副鼻腔炎、嚥下障害)
  • 内分泌異常(耐糖能異常、脂質異常症)
  • 生殖機能低下(性腺機能異常、不妊症)
  • 腫瘍ができやすい

これらの症状が出現し始めたら、筋強直性ジストロフィーを疑いますが、発症する時期や症状の現れ方は患者さんによって様々です。少しでも気になる点があれば、神経内科を受診しましょう。

筋強直性ジストロフィーの原因

 近年の研究により、この疾患の原因について様々なことが分かってきましたが、未だに全貌は明らかになっていません。ただし、原因となる遺伝子や病態(病気を発症する仕組み)はある程度分かってきています。少し難しい話になりますが、ここではできるだけ噛み砕いて説明します。

 人間を含め、生物の体は多数の細胞から構成されています。一つ一つの細胞の中には、核という構造があり、その中には生命の設計図とも言えるDNAが折りたたまれ、染色体という形で存在しています。この核内のDNAを構成する遺伝子配列を、RNAという物質がコピーし、核の外へ出てコピーした情報をもとにタンパク質を作り上げます。こうして作られるタンパク質は体中の様々な場所で機能を発揮します。

 一方、筋強直性ジストロフィーは、ある遺伝子配列の一部分が「異常に繰り返して配列してしまうこと」が原因で発症すると考えられています。遺伝子の異常な「繰り返し配列」をコピーしたRNAも当然、異常な「繰り返し配列」を持っていますから、上手く核の外に出ることができず、核の中で蓄積してしまい、他の遺伝子の正常な発現を妨げてしまいます。この原因となる遺伝子は、筋肉や神経をはじめとした様々な組織に発現しているため、筋肉の異常を中心とした、上で述べたような様々な症状を生じると考えられています。

筋強直性ジストロフィーの遺伝

 人間の遺伝子は基本的に2本で1対の遺伝子を持っており、それぞれ父親と母親からのコピーを譲り受けます。筋強直性ジストロフィーは「優生遺伝」という形式で遺伝することが知られており、この遺伝形式では、1対のうちどちらか一方の遺伝子に変異があれば発症すること、また両親のどちらかが変異遺伝子を持っている場合、50%の確率で子供に受け継がれる可能性があることが分かっています。
 更に、「繰り返し配列」は世代を継がれる度に長くなる傾向があり、「繰り返し配列」が長ければ長いほど、発症する年齢が早くなり、重症になりやすいことが分かっています(これを「表現促進現象」と呼びます)。つまりこの遺伝子を受け継いだ子供は、より早期に発症し、重症になる可能性があるのです。この疾患の遺伝について詳しく、そして正しく知るために、既にこの疾患と診断されている方やその可能性がある方、そのご家族の方は、一度当院神経内科へご相談ください。当院では東京大学神経内科に遺伝子診断をお願いしています。

筋強直性ジストロフィーの検査

 筋強直性ジストロフィーは、その特徴的な症状から、問診と診察で臨床診断できることもありますが、診断を確定させるためには、いくつかの検査を行う必要があります。

血液検査

 筋肉が壊れた時に上昇する酵素の値(CK)を調べるため、また他の臓器障害がないか評価する目的で行われます。更に、他に筋力低下の原因(自己免疫疾患、感染症など)がないか、スクリーニングとして評価するために行われます。

心電図・心エコー検査

 筋強直性ジストロフィーでは心臓の筋肉が障害され、不整脈や心機能の低下を起こすことがあります。心臓の状態を簡潔に知るために、体に電極シールを貼って検査します。心臓の状態が悪いと考えられる場合は、心臓に超音波を当てて直接心臓の動きをみる、心エコー検査も行います。

針筋電図

 腕や足の筋肉に電極の付いた細い針を刺し、筋肉の電気活動を見ることで、筋肉にどのような障害が起こっているのかを知ることができます。当然、痛みを伴いますが、直接筋肉の活動状態を知ることができるため、非常に重要な検査です。筋強直性ジストロフィーでは、「ミオトニー電位」という特徴的な所見(検査の時にスピーカーから発生する激しい音から、急降下爆撃音とも表現されます)が認められ、診断に有用です。

図1針筋電図
図1.筋強直性ジストロフィーの針筋電図
正常の筋電図では、針を刺した筋肉の収縮がまばらに見られるのに対して、
筋強直性ジストロフィーの筋電図(上図)では、針を刺すと同時に鋭い波が連続して現れます(赤丸)。
これを「ミオトニー電位」といいます。

筋生検

 上腕や下肢などの筋肉の組織を採取して、顕微鏡で調べます。他の筋ジストロフィーや筋疾患と区別する上で有用です。

遺伝子検査

 以上の診察・検査の結果、筋強直性ジストロフィーが強く疑われる場合に、最終的な確定診断のために、血液を採って遺伝子検査を行います。筋強直性ジストロフィーでは、原因となっている遺伝子変異が分かっているため、原因遺伝子に異常な「繰り返し配列」が認められないか、特殊な検査を行います。遺伝子検査で変異が見つかった場合、最終的に「筋強直性ジストロフィー」の確定診断となります。

筋強直性ジストロフィーの治療

 残念ながら、筋強直性ジストロフィーの根本的な治療はまだ確立されていませんが、医学研究の進歩は著しく、新規治療薬のための様々な研究が報告されてきています。一部には、治験の段階まで進んでいる治療薬も開発されており、実用化が期待されています。継続的に医療機関を受診し、今受けることのできる最新の治療に関する情報を知ることはとても大切です。

 根本的な治療だけでなく、合併症に対する予防・治療も重要です。例えば、不整脈が強い場合はペースメーカーや抗不整脈薬などを用いますし、呼吸機能が落ちてしまった患者さんには人工呼吸器が必要となります。飲み込みが難しい患者さんは、栄養経路を確保するために胃瘻(胃に直接栄養を入れるための穴)を造設する必要があります。また、適切なリハビリテーションを行うことも大切です。この疾患では筋肉が非常に壊れやすくなっているため、過度な運動は禁物ですが、筋力低下の程度や、呼吸筋・心機能などに合わせて、適切な運動療法や呼吸訓練を行う必要があります。患者さんの症状に合わせた、適切なリハビリテーションを行うことで、生活の質を保つことができるようになるだけでなく、将来的な合併症を防ぐことができます。

 筋ジストロフィーは厚生労働省が定める指定難病(特定疾患)であり、生活に介助が必要な患者さんは申請を行うことで、医療費助成を受けることができます。この疾患の患者さんは病識(症状や疾患についての認識)が少ないことがしばしばあり進行してから受診されることも多いですが、早期に診断して、適切なタイミングで説明を受け、病状に合わせて必要な医療・福祉サービスを受けることがとても大切です。このページを読んで、自分や家族の方に、少しでも思い当たる点があれば、当院神経内科にご相談ください。当科は神経難病の診療に力を入れており、診断だけでなく、歩ける患者さんから寝たきりの患者さんまで合併症もふくめた診療をしております。

参考文献

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