パーキンソン病と同様、中高年で発症し、パーキンソン病と類似した症状が徐々に進行する疾患です。パーキンソン病では主に中脳の黒質という前の部分に病変が見られますが、この疾患では中脳の後ろの方(中脳被蓋)が萎縮し、タウ蛋白という異常なたんぱく質が蓄積することがわかっています。この部位は上下方向の眼球運動や歩行、姿勢保持に重要な役割を果たしており、進行性核上性麻痺では眼球運動障害や歩行障害、姿勢を保持する反射の障害がみられます。”核上性麻痺”とは、中脳が障害されることによる特徴的な眼球運動障害から名付けられました。10万人中数人程度で比較的稀な疾患とされていますが、様々な病型があって特に歩行障害だけが目立つ場合は正確な診断がなされていない患者さんが多く、また高齢化とともに近年急激に増加しており、パーキンソン病と並んでごく一般的な神経疾患と考えられます。
上下方向の眼球運動が障害され、体や頸部のジストニアとよばれる筋緊張の異常によりパーキンソン病とは逆に反ってくる患者さんもいます。歩行がすくむようになり、後方、前方に転びやすくなります。パーキンソン病と違い、病初期から転倒が多いことが特徴です。また呂律がまわりにくい、飲み込みにくいといった口周りの症状も進行とともに出現します。病型によっては認知機能の低下もみられます。パーキンソン病とは逆に四肢の筋緊張が低下していたり、運動や歩行を調節している小脳の障害による症状が目立つ患者さんもいて、同じ病気であっても患者さんによって症状は多様です。症状の左右差が少ないことも特徴のひとつとされています。
1964年にRichardsonらによって報告された古典的な病型(PSP-RS)のほかに、パーキンソン病と区別が難しいタイプ(PSP-P)、すくみ足や姿勢反射障害が目立つタイプ(PSP-PGF)、皮質基底核変性症との区別が難しいタイプ(PSP-CBS)、小脳性運動失調が目立つタイプ(PSP-C)、失語症を伴うタイプ(PSP-PNFA)など病変部位や症状によって様々な病型があることがわかってきました。とくに、すくみ足や姿勢反射障害が目立ち転倒を繰り返す方は大変多く、PSPと正しく診断されにくい傾向があります。古典的な病型の患者さんは決して多くありませんが、他の病型も含めるとPSPは珍しくない疾患といえます。
症状、経過、診察所見が最も重要なのはパーキンソン病と同様です。パーキンソン病と同じような症状を呈する疾患群(パーキンソン症候群)との区別がとても重要です。進行性核上性麻痺の場合、典型的には脳MRIで中脳の後ろ側が萎縮しハチドリの頭のような形になり(図1)、放射性物質を注射して大脳基底核の機能を調べるDATSCAN(図2)で異常がみられます。パーキンソン病で異常がみられるMIBG心筋シンチグラフィーでは異常がみられないので、パーキンソン病との区別に役立ちます。
図1 頭部MRI所見①
前後方向の断面では中脳の後ろ側が委縮してハチドリの頭のようにみえます
図1 頭部MRI所見②
水平方向の断面では中脳が矢印の部分で
委縮します
図2 進行性核上性麻痺の大脳基底核機能検査(DATSCAN)
左右ともに大脳基底核(矢印)の機能の低下が著明です
パーキンソン病と異なり、薬物療法は効果が少ないとされています。しかし特に初期にはパーキンソン病の治療薬が歩行障害などに有効なこともあり、副作用に注意しながら試す価値はあると思います。
この疾患では転倒による骨折や頭部の外傷などで、歩行できなくなることが少なくありませんので、定期的なリハビリは筋肉の衰えを防ぎ、転倒を防止するためにも重要です。当科では定期的な病状評価、歩行障害や嚥下障害のリハビリなどを実施し、少しでも病状の進行を防ぐよう努力しています。進行期にみられる誤嚥性肺炎、褥瘡などの合併症の診療も対応しています。パーキンソン病と同様に、厚生労働省の特定疾患(神経難病)に指定されていますので、介護サービスの利用などをあわせて適切な療養環境を整えるようにしています。病状が進行し、在宅診療となった場合も、在宅療養後方支援病院として訪問診療の医師と連携し、必要時には緊急入院の受け入れを行っております。