




関節軟骨は関節内にあり、関節の運動を円滑に行う上で無くてはならないもので、正常な関節軟骨の滑りやすさ(摩擦係数)アイススケートでの滑りやすさと同等かより低い(よく滑る)と言われています。
ところが、軟骨は後述の半月板と同様で血流による自然な治癒がおこりにくい組織なのです。正常の軟骨を関節鏡で見ると、傷一つなく、真っ白で血流が無いことがわかります。
軟骨損傷は年代ごとに特徴があり、治療が異なります。治療法により大まかに10歳ころにピークのある離断性骨軟骨炎、半月板損傷や靱帯損傷など外傷に伴っておこる軟骨損傷、中高年に生じる広範な軟骨損傷(老化)に分けられます。
離断性骨軟骨炎は、軟骨が骨ごとはがれる病気(図2-1-1)で、膝以外にも肘(外側の野球肘)や足首(捻挫と関連した軟骨障害)におこります。原因は不明ですが、成長期の骨に小さな負担が積み重なっておこると考えられています。野球肘のように原因がはっきりしているものもありますが、先天性の要因があって発生することもあります。

図2-1-1 離断性骨軟骨炎:
肘の関節に剥がれた軟骨(↑)が挟まり込んでいる
多くは10歳頃に膝関節の痛みや引っかかりが、大きなきっかけも無くおこります。初期はレントゲンでは分からないことが多く、診断にはMRI検査がとても有用です。安静のみで自然に治癒することもありますが、はがれ方が大きい場合や剥がれてしまった場合には手術療法が必要になります。
手術には、軟骨の下層に穴を開けて深部の骨から骨髄を誘導して骨癒合を期待する骨穿孔術や、自分の骨で作った釘(骨釘)や体内で自然に分解される釘(吸収性ピン)などを用いて固定する固定術(図2-1,2)、自身の正常軟骨を病変部に移植する骨軟骨柱移植術(図2-1-3、図2-2-2)などがあります。可能な限り自分の組織、自分の軟骨での修復を目指します。

図2-1-2 離断性骨軟骨炎の治療1:
骨釘(↑)固定

図2-1-3 離断性骨軟骨炎の治療2:
骨軟骨柱移植
多くが半月板損傷や靭帯損傷、あるいは骨折などのケガや交通事故などの結果で軟骨が損傷されたものです。多くは軟骨が既に欠損しており、そのために水がたまり、痛みや引っかかりがおこります(図2-2-1)。
運動制限、筋力訓練、固定、消炎鎮痛薬、注射、インソールなどの保存治療(手術をしない治療)が初期の治療になります。この間に軟骨損傷が修復されてくることがあります。その場合にも、完全に元通りにはならず線維軟骨という質のよくない軟骨で補填されるに留まります。
上記で症状が取れないものに対しては手術が必要になります。範囲が小さいものは下層の骨髄を誘導して軟骨欠損部を修復する骨穿孔術で対応が可能です。ある程度大きなものに対しては骨軟骨柱移植術で対応します(図2-1-3、2-2-2)。

図2-2-1 軟骨損傷

図2-2-2 軟骨損傷に対して骨軟骨柱を
関節鏡視下に移植したところ

図2-2-3 培養して大きくした軟骨
より大きな軟骨欠損に対しては、患者さん自身の軟骨を少量採取し、専門施設で培養して大きな軟骨を作って(図2-2-3)移植する、自家培養軟骨移植術を行います。再生医療ですので、採取のための入院と、移植とリハビリテーションのための入院期間が必要になります(図2-2-4)。
当院では、大きな骨軟骨欠損、O脚やX脚などのアライメント異常を合併した難治症例に、関節機能を温存するために、自家培養軟骨移植術+骨移植術+オステオトミーを併用し、良好な治療成績を残しています。

図2-2-4 軟骨採取から培養・移植・退院・リハビリまでのイメージ
(https://saisei-navi.com/hiza/cartilage_treatment/about_treatment/ ,2025.11.5閲覧)

図2-2-5 変形性関節症による
広範な軟骨欠損(▲)
より範囲の広い外傷や、老化による軟骨損傷(図2-2-5)を修復できる良い方法はまだありません。今後の研究が待たれますが、現状では関節の負担を避ける方法が治療となります。
膝関節内には半月板という、関節にかかる体重を分配して負担を減らしたり、関節運動を円滑に行わせたり、安定性を助けるなど、非常に大切な役割をもった軟骨があります。過度な運動で損傷したり、老化によって痛んだり、もともと先天的な異常があって痛むことがあります。
半月板が痛むと上記のような機能が損なわれ、歩行時、運動時に痛みが出てきます。時に膝の曲げ伸ばしで痛みを伴う引っかかりがおきたり、急に膝の曲げ伸ばしができなくなったりします。損傷が進むと安静にしていても痛むことがありますし、天候が悪くても痛むことがあります。
正常の半月板は写真(図2-3-1)で分かる通り真っ白です。これは血流からの栄養をあまり受けていないことを示しています(関節軟骨も同じですね)。つまり一度損傷されると血流からの修復機転が起こらず、なかなか治りません(図2-3-2)。
損傷がひどくなると、体重による負担を分散する機能がそこなわれますので、関節の老化現象が加速することになります。そうならないうちに適切に対処する必要があります。また実際に動きの障害になるものに対しては早期に原因を取り除かなくてはなりません。

図2-3-1 正常な軟骨(➡)と半月板(➡)

図2-3-2 半月板損傷(➡)
運動制限、筋力訓練、固定、消炎鎮痛薬、インソール(靴の中敷き)などが初期の治療になります。こうした方法が効かなかった場合や、関節の痛みや可動域制限などの症状が強く、MRI検査の結果、最初から保存療法の適応がないものが手術療法の適応となります。
手術は関節鏡という内視鏡(図2-3-3)で行います。関節鏡はここ東京逓信病院で、世界で初めて実用化された機器で、小指の爪の幅くらいの小さい傷を2−3カ所つけて、そこから関節内の操作を行うもので、手術による体の負担が小さいのが特徴です(図2-3-4,2-3-5)。

図2-3-3 関節鏡(直径4㎜の硬性鏡を使用している)

図2-3-4 手術風景1(大きなモニターを見ながら手術を行う)

図2-3-5 手術風景2(膝関節に関節鏡と処置用の器具を挿入しているところ)
手術の実際は、損傷の原因や形態により様々ですが、大別すると縫合する(縫う・修復する±補強)か、切除する(取る)か、になります。半月板の機能をなるべく守りたいので、可能な限り縫合(修復・補強)術を選択します。この場合には、ただでさえ治りにくい半月を修復するために、手術後には膝の曲げ伸ばしの運動制限や階段昇降等の日常生活の制限を設けてリハビリテーションを長めに設定します。一方、切除のみの場合には大きな制限はつけません。
入院期間は部分切除で5日間、縫合術で11日間となっていますが、状況に応じて対応いたします。
運動復帰は断裂状況にもよりますが、一般的には切除の場合には術後3ヶ月、縫合の場合にはその倍はかかります。
膝関節にはいくつかの靭帯(骨と骨をつなぐ線維の束)があり、靭帯が関節を安定させています。このためスポーツ外傷や交通事故などで靭帯が損傷されると膝がグラグラと不安定になります。靭帯の中でも内側側副靭帯(MCL)や後十字靭帯(PCL)など、ある程度損傷しても困ることが少ないものもあります。
ところが、前十字靭帯損傷(ACL)の場合にはスポーツ活動に復帰することが難しくなります。その理由は前十字靭帯が膝関節の回旋(ねじれ)を制動しているためです。そして一度損傷すると回旋の制御は回復しないことが圧倒的に多く、動作の中で膝関節の「ねじれ」を伴うバスケットボールやサッカー、テニス、スキーなど多くのスポーツでは復帰してもターンや切り返し動作、ジャンプの着地などの時に捻挫を再発し、復帰が難しくなります。ゆるみの強い人は、日常生活でも段差の踏み外しなどのちょっとしたアクシデントで膝がずれるような捻挫を繰り返すこともあります。
診断は正確な診察(理学所見)とMRIによって可能です。膝前十字靭帯損傷の診察では、上述の理由で、「ねじれ」に対する安定性の有無を見分けるのがポイントとなります。特殊な手技のため、一般の整形外科医では診断できないことも多々あるので、専門家を受診することを強くお勧めします。MRIでは前十字靭帯の損傷を高い精度で確認できる(図2−4−1)と同時に、診察では見つけにくい半月板損傷や軟骨損傷を調べることができます(図2−4−2)。

図2-4-1 MRI:膝前十字靭帯損傷
図2-4-2 MRI:半月板損傷
診察の結果、 1) 「ねじれ」の程度が大きい人ではスポーツ復帰できないこと 2) 捻挫を繰り返すことで関節内の大切な軟骨(半月板、関節軟骨)を損傷し、関節の老化を早めてしまうこと 以上、二つの理由に当てはまる選手・患者さんには手術療法をお勧めしています。
膝前十字靭帯(ACL)の治療で、現在世界中で推奨されている唯一の手術方法が再建術です。再建術では靭帯の代わりになる腱を使います。腱とは筋肉と骨をつなぐ堅いスジ状の組織で、靭帯に似た特性があります。腱は自分の体の腱(自家腱)を採取して使用します。自家腱としてはハムストリングス(膝を曲げるモモ裏の筋肉)の腱である半腱様筋腱、またはお皿のすぐ下にある膝蓋腱が世界中でよく使われます。
手術術式は様々ですが、関東労災病院スポーツ整形外科、東大病院整形外科、東京逓信病院整形外科、JR東京総合病院で25年に渡り膝関節・スポーツ整形外科を担当して様々な術式に対応可能ですので、選手の予後を想像しながら術式の相談、選択をすることにしています。どちらの腱(半腱様筋腱・膝蓋腱)も術後の成績はよいですが、それぞれに特徴がありますので、選手の状況や希望に応じて使い分けています。
手術はいずれの腱を使う場合にも元々の靭帯機能の再現を目指して、元の字正常な靱帯(図2−4−3)と同じような解剖学的な再建(図2−4−4)を行います。軟骨損傷や半月板損傷などの損傷があれば同時に治療します。手術は通常1−2時間で終了します。翌日から理学療法室にてリハビリテーションが開始され、入院から12日目に退院します。退院時には杖なしで歩いて退院します(軟骨や半月板の損傷状態によります)。

図2-4-3 正常な膝前十字靱帯

図2-4-4 前十字靭帯再建後
外来には最初の2ヶ月までは2週に1回、その後は月に1回程度の通院となります。最初の2ヶ月は膝関節を保護する装具(あるいはサポーター)を装着します。リハビリテーションによって徐々に筋力が回復してきますので段階に応じて運動制限を解除します。
一般的には3ヶ月からジョギング、5ヶ月から元の運動に部分参加していきます。この期間は再受傷がないように慎重に進めていくことがとても大切になります。
通常は8ヶ月から1年での復帰を目指します。復帰の目安は筋力の回復と運動動作の獲得ですので、復帰へのモチベーションやリハビリテーションに割ける時間、筋力のつきやすさなどにより個人差が大きくなります。
内側側副靱帯(MCL)損傷は膝関節の中で最も頻度が高い靭帯損傷です。損傷程度は3段階に分類されますが、ほとんどものは保存療法で治療可能です。完全断裂とされる3度損傷に対しては手術療法(修復または再建)で関節を安定させることができます。 後十字靭帯(PCL)は前十字靭帯と対をなして関節内にある強靭な靱帯で、これもほとんどが保存療法で治療可能です。完全断裂となって不安定性が強いものに対しては再建術を行い、安定した関節を再建することができます。
膝蓋骨脱臼(図2-4-5,6)は、怪我で偶発的に脱臼してしまったものと、生まれつきの骨の形状や軟部組織の異常によって元々脱臼しやすい状態であったものが脱臼してしまったものに分けられます。一般的には保存療法を優先的に行いますが、約半数が再脱臼するとされており、元々脱臼しやすい状態であった方や骨折を合併した場合には、初回から手術が必要になることがあります。何度も脱臼を繰り返す場合には靱帯(内側膝蓋大腿靱帯:MPFL)再建術が選択されます。さらに骨の形状を修正する手術を追加することがあります。

図2-4-5 膝蓋骨にかかる力

図2-4-6 膝蓋骨脱臼
今日の整形外科治療指針2024年 中山修一(分担執筆)より抜粋