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膝関節外科の疾患 2

変形性膝関節症

人生の中で、健康に歩いて暮らすことはとても大切なことです。人生の後半では歩くこと、移動することが困難になると全身が弱って、介護が必要になってしまいます。このように運動器(骨・関節・筋肉など)の障害により移動能力が低下し、要介護の危険が増した状態を(ロコモティブシンドローム.2025年9月21日閲覧)といいます。
ロコモティブシンドロームの大きな原因のひとつが、ひざ関節の老化現象である変形性膝関節症です。早い段階(症状が出る前)から、筋力やバランスの訓練をして運動器の衰えを防ぐことがとても重要です。しかし、症状が出た場合には治療が必要になります。

変形性膝関節症に対する保存療法

ひざの老化現象のために症状が出た場合(変形性膝関節症)には、保存療法(手術をしない治療)として、主に筋力訓練指導を行うリハビリテーションやインソール(靴の中敷き)を作成する装具療法、内服・外用薬の使用、ヒアルロン酸注射などを行います。
私たちが指導する筋力訓練は、膝の痛みがあっても安全に行える訓練です。簡単な3種類の運動を行っていただきます(図2-5-1-1)。実際に筋力がつくまでには時間がかかりますが、筋肉に命令を伝えてから収縮するまでの時間(筋肉の反応時間)は訓練を開始すると早い段階から学習されるようです。このために訓練を開始した早い時期から痛みが和らぐ方が多いように感じています。このような「安全」かつ「神経一筋活動を再教育」するような運動は発症初期には極めて有効だと考えています。まずはこの簡単な筋力訓練にインソール(図2-5-1-2)、内服等を追加していきます。

図2-5-1-1
図2-5-1-1 運動療法のパンフレット

図2-5-1-2
図2-5-1-2 インソール(靴の中敷)

図2-5-1-3
図2-5-1-3 変形性関節症による
広範な軟骨欠損(▲)


完全にすり減ってしまった関節軟骨(図2-5-1-3)を元に戻す治療法には未だ限界があります。保存療法の効果がなかった場合には、手術療法としてオステオトミー(骨切り術)と関節再建人工関節置換術など患者さんの状況にあった治療法を検討します。

変形性膝関節症に対する手術療法

みなさんは平均余命という言葉をご存知でしょうか?
0歳児の平均余命は、平均寿命(女性87.14歳、男性81.09歳)といいます。では60歳では、70歳では、80歳の方の余命はどうでしょうか?
実は・・・
60歳の方の平均余命は 女性28.91年 男性23.68年
70歳の方の平均余命は 女性19.96年 男性15.65年
80歳の方の平均余命は 女性11.81年 男性8.98年(令和5年 厚生労働省)
と、いずれも平均寿命より長く生きていることが分かっています。
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life23/dl/life23-02.pdf. 2025年9月21日閲覧)
この余命をできるだけ楽しく、痛みなく過ごしていただくことが私たちの治療の目標のひとつです。

ひざ関節の老化現象のために症状が出た場合には、まず保存療法を行いますが、症状が取れない場合には手術を行います。手術方法には患者さんの年齢や生活背景、変形の程度によって種々のものがあります。

オステオトミー(骨切り術)と関節再建

主に70歳より若い、O脚の患者さんに行います。ひざ関節には手を付けずに温存し、老化や変形のためにO脚になってしまった脚を矯正して、ひざ関節の負担を軽減します。(図2-5-2-1)。
矯正するために骨を切るので、骨切り(こつきり)術と呼びましたが、近年呼称の変更がなされオステオトミーと呼ぶことになりました。切った骨が治るまでにやや時間がかかりますが、関節自体には手を付けないで温存しておくことができます。内側の痛みが軽減しますので、もとの運動を含めた活動を「制限なく」再開していただくことができるのが最大の特徴です。比較的若い、活動性の高い方には特にお勧めできる手術です。

図2-5-2-1
図2-5-2-1 近位脛骨オステオトミー:(HTO(O脚(写真左)をX脚(同右)に矯正する手術)

また、数少ないX脚型の変形の患者さんには大腿骨での矯正を行います。(図2-5-2-2)は、交通事故で外側の骨と軟骨が欠損してしまった患者さんに、外側の骨移植、自家培養軟骨移植を行い、大腿骨でX脚を矯正した手術の後のレントゲンで、術後9年以上を経過していますが、症状はほぼなく経過良好です。

このように、人工関節にはまだ早い、活動性の高い年齢での変形や外傷に対しては、可能な限り「ご本人の関節を温存する手術術式」を優先して検討しています。これまで、靱帯再建術+オステオトミー、半月板修復術+オステオトミー、自家骨移植術+オステオトミー、自家培養軟骨移植術+自家骨移植術+オステオトミーなど、現在使用可能な術式を組み合わせた関節再建を行っており、5根に上を経過した中期成績で良好な成績を残しています。

図2-5-2-2
図2-5-2-2 骨折後のX脚型の変形に対して行った、
自家培養軟骨移植術+自家骨移植術+遠位大腿骨オステオトミー:DFO(X脚を矯正する)

単顆人工関節置換術:UKA

主に60歳以降で変形が少なくても痛みの強い患者さんに行います。部分的に人工の関節に置換する手術(単顆人工関節置換術、図)方法です。人工関節「全」置換術(下記)に比べて、からだに与える影響が少ない手術です。手術後のリハビリテーションがよりスムーズで、長期に安定した成績が期待できます。

図2-5-2-3
図2-5-2-3 単顆人工膝関節置換術(部分的な置換)UKA

人工膝関節全置換術:TKA

主に60歳以上で変形の強い患者さんに行います。膝関節全体を人工の関節に入れ替えます(図2-5-2-4)。手術の目的は痛みをなくすこと、脚を真っ直ぐにすぐことです。60歳未満の方でもオステオトミー単顆人工関節置換術などの関節再建術が適応にならず、日常生活を送るのが難しくなってしまった方には、人工関節置換術を行います。

この手術は長期に安定した成績が期待できる手術方法で、世界中で行われています。当院でも安定した成績で行うことが可能です。

この分野でも多くの研究と機械・技術の発達があり、当院では変形が強い患者さんに対しても対応できるような、対応力のある人工関節を使用し、ナビゲーション支援下で手術を行い(図2-5-2-5)、より正確に人工関節を設置しています。

図2-5-2-4
図2-5-2-4 人工膝関節全置換術(関節全体の置換)TKA

図2-5-2-5
図2-5-2-5 ナビゲーション下人工膝関節置換術

特発性骨頭壊死

関節の荷重面で、何らかの理由で骨の再生サイクルが止まってしまった状態です。原因不明のものは特発性とされていますが、血流が悪くなって発生したものや、強い負荷のために小さな骨折が連続して起こり骨壊死に至るものがあるとされています。骨壊死を起こすと、関節ではその部分の骨と軟骨の機能が欠損してしまい、体重をかけて歩くことに大きな支障をきたすことになります。
壊死の大きさはそれぞれで、疼痛や変形の程度に個人差が大きいため、保存療法で改善することもありますが、上述のように、オステオトミーや骨移植や軟骨移植を併用した関節再建で関節を温存する治療や、人工関節置換術の適応となることもあります。当院ではいずれも治療も対応可能ですので、ぜひご相談ください。

図2-6-1
図2-6-1 大腿骨内顆骨壊死による広範な骨欠損

図2-6-2
図2-6-2 骨壊死は骨移植によって補填されている

関節機能再建とプレシジョン・メディスン

膝関節には曲げて伸ばすだけでなく、それに伴った回旋運動などが起こって快適に可動することがわかっています。これらの機能が損傷されてしまった場合には、本来の生理的な運動を取り戻すために、しっかりした機能回復訓練が必要になります。ここには理学療法士、鍼灸師、トレーナーを始めとした、多くの治療家が携わっています。
しかし、不幸にも生理的な構造(骨・軟骨・靱帯・半月板・アライメント)が破綻してしまった方には、関節機能再建が必要になる場合があります。
当科では、骨移植・軟骨移植・靱帯再建・半月修復・オステオトミー・人工関節といった膝関節に対するほぼ全ての手術療法が可能です。これらは単独で行われることが多いですが、当科では全ての組み合わせを治療法の選択肢に組み込むことが可能です。

現在、患者さん一人ひとりの遺伝子、生活環境、ライフスタイルなどの違いを考慮して、予防法や治療法を精密に選択する新しい治療の考え方があります。これを「プレシジョン・メディスン」と呼びます。私たちは遺伝子情報を使用するには至りませんが、患者さんの個々の特性に合わせたオーダーメイドの治療法(プレシジョン・メディスン)を提供することを当科の目標としています。

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