今年4月から東京逓信病院脳神経外科において、診療に従事させていただいております岡本幸一郎と申します。簡単な自己紹介となりますが、1988年旭川医科大学を卒業後、東京大学医学部附属病院で初期研修、その後茨城県立中央病院、東京都立駒込病院、国立国際医療研究センター病院にて多くの先生方の御指導を賜りました。
脳神経外科医としては、頭部外傷・脳卒中の急性期の治療に従事することがまずはその使命ですが、もう一つ別のものとして脳腫瘍の治療は手術のみならず放射線治療や日々進歩している化学治療の併用など集学的治療が必要となってきております。
脳腫瘍は脳の神経や細胞、脳を包む細胞から発生する原発性脳腫瘍と、からだのがんなどが脳に転移する転移性脳腫瘍に分けられます。
原発性脳腫瘍は、さらに良性と悪性腫瘍に分類されます。世界的基準であるWHO分類と悪性度(グレード)I、II、III、IVまで分類されています。
良性腫瘍は、グレードIが大部分で、代表的なものは、髄膜腫、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)、下垂体腺腫などがあげられます。症状があるような場合には、頭部CTやMRI検査にて精査しメリットとデメリットを十分に検討して手術で摘出します。
悪性腫瘍はグレードIIからIVのもので、病変の場所により多彩な症状を示すことが多く、また頭部CT、MRI検査にて精査し、手足の運動や言語の機能などできる限り温存しながら手術を予定し、腫瘍の細胞を正確に診断(病理検査といいます)し、診断が確定すれば症状の悪化を防ぎながらできるだけ腫瘍を摘出し、その悪性度にみあった放射線治療や化学治療を組み合わせておこないます。
代表的なものとして、神経膠腫(しんけいこうしゅ)特に星細胞腫(せいさいぼうしゅ)と乏突起膠腫(ぼうとっきこうしゅ)です。これらはグレードIIのものと、グレードIIIに悪性化すると退形成性と病理診断名が長くなります。
グレードIVと最も悪性度の高いものは、神経膠芽腫(しんけいこうがしゅ)と呼ばれます。また特殊なものとして比較的高齢者に多い中枢神経系悪性リンパ腫や小児に発生するものなど様々存在します。
国内での脳腫瘍の発生頻度は年間およそ2万人といわれており、脳腫瘍の組織学的分類は驚くべきことに150種類にも上ります。
脳腫瘍に対する治療についても、もう少しお伝えしたいと思います。
手術において、脳機能をできる限り温存して腫瘍を取り除くために、手術中に2mm以内の精度を高めるナビゲーションや運動・聴力など神経機能を温存するための電気生理学的モニタリングでの監視体制、腫瘍細胞に術中蛍光診断、摘出程度の評価としての術中MRI検査、言語機能の温存を目的とする覚醒下手術など専門の技術を個々の症例に則して計画して治療を進めます。また化学治療も抗腫瘍薬や分子標的薬などが開発され、以前の治療成績より格段の進歩が得られております。脳腫瘍疾患の患者さんは、是非当科に御相談下さい。