第140号 2021年4月1日発行
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“ロコモティブシンドローム”という言葉を最近よく耳にされると思います。この言葉は英語で移動することを表す「ロコモーション(locomotion)」、移動するための能力があることを表す「ロコモティブ(locomotive)」からの造語で、人間が立つ、歩く、作業するなどの身体能力が低下した状態をさし、ロコモとはその略称です。ロコモが進行すると、将来介護が必要になるリスクが高くなります。要支援、要介護になる原因のトップは関節など運動器の障害で、その主な原因の一つである変形性膝関節症(膝OA)の患者さんはわが国に780万人もいると推計されています。
膝OAに対しては、従来から種々の予防、治療が行われてきました。当科では一つの治療法にこだわることなく、患者さんに寄り添い適切な治療を進めています。膝周囲筋力の維持強化は、予防、治療のいずれにも重要で、すべての患者さんにホームエクセサイズとして推奨しています。
軽症の患者さんではこれだけで日常生活に困難をきたさないこともしばしばです。
(やり方は当院ホームページ:https://www.hospital.japanpost.jp/tokyo/shinryo/seikei/oa.html参照)
それだけでは効果が不十分な場合、除痛目的に種々の投薬やヒアルロン酸関節内注入を行います。筋力強化訓練を併せて行うことで症状の改善がみられれば、それをいたずらに続けるのではなく、徐々に減らします。最近ではPRPや幹細胞の関節内注入療法(保険のきかない自由診療)が一部でもてはやされていますが、高価な上にその効果も未だ一定の評価が得られておらず、当科では施行していません。上記のような手術以外の治療で痛みが十分には改善しない場合、手術療法に進まざるを得ません。手術療法には関節鏡手術、骨切り術、人工関節置換術などがあり、当科では全て施行可能です。関節鏡手術は一部病変へのアプローチで症状改善が見込める場合に、骨切り術はスポーツなど高い活動性の継続を希望する場合に適応があります。一方、病状が進行した場合には人工関節置換術が適応です。いずれの手術療法においても術後は当院の地域包括ケア病棟を利用して、患者さんの膝関節機能が十分に回復するまで入院リハビリが可能です。その結果、患者さんの満足度の高い上質な治療が出来ているものと自負しています。膝OAの患者さんには少しでも長い健康寿命が維持出来るよう、お手伝いさせていただければ幸いです。