第150号 2023年10月1日発行
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東京逓信病院は、2023年4月1日より「東京都がん診療連携拠点病院」に指定されました。「東京都がん診療連携拠点病院」とは、高度で専門的ながん医療を提供することのできる医療機関として、国が指定するがん診療連携拠点病院と同等の高度な診療機能を有する病院を、東京都が独自に指定するもので、当院を含め9病院が「東京都がん診療連携拠点病院」の指定を受けています。
がんの治療法は、手術や放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)に加え、最近では免疫療法やゲノム診断も加わるなど、多岐に渡ります。ちなみに私の専門領域である耳鼻咽喉科頭頚部外科領域では、日本頭頸部癌学会による診療ガイドラインが整備され、エビデンスに基づいた標準治療が意識される時代となっています。また、毎年のように診断や治療に関する新しい情報が提供されています。例えば、口蓋扁桃などに生じる中咽頭がんでは乳頭腫(パピローマ)ウイルスの関与した発がんが増えていますが、このがんは喫煙や飲酒による従来型のがんに比べて若年者に発症しやすく、頸部リンパ節に転移しやすく、放射線療法や化学療法によく反応するという特徴があります。ウイルス性のがんでは従来型と同じ進行状態でも治療成績が良いため、ウイルス性でないがんと異なる病期分類が提唱されており、病変を生検して免疫組織学的検査等で調べ、ウイルス性のがんかそれ以外かを見極めることが重要になっています。
手術では低侵襲の手術法の開発が進み、例えば口腔や咽頭に存在するがんには経口的ロボット支援手術が2023年4月に薬事承認され、経口腔的に手術できるという低侵襲性に加え、術後の摂食嚥下機能の維持に貢献できています。飲酒が主な原因である下咽頭がんでは早期例は内視鏡下に粘膜を切除することで根治が可能であり、早期発見の重要性がますます高まっています。また鼻から脳に進展する前頭蓋底のがんでは、脳外科の協力のもとに開頭して頭蓋底を切除し筋皮弁などを用いた再建を行う一日がかりの拡大手術が主流でしたが、内視鏡を用いて鼻内からがんを摘出して再建まで行う手法が開発されています。化学放射線治療の成績も向上しており、喉頭がんや下咽頭がんの進行例では声を犠牲にする手術(喉頭全摘術や咽喉頭食道摘出術)が主流でしたが、現在は手術を選択せず、化学放射線療法により喉頭を温存して(声を残して)根治できる可能性が増えています。
当院ではこれまでも各部門が密に連携をとりながら地域のがん診療の中核的な役割を担って参りました。また、患者さんやご家族の不安や心配事を少しでも解消できるよう、緩和ケアチーム(病棟)やがん相談支援センターなど、さまざまな部門・職種のメンバーが一丸となって取り組んできています。この「東京都がん診療連携拠点病院」の指定を機会に、多職種によるチーム医療を含めた院内のがん診療体制のさらなる充実を図るとともに、がん拠点病院や地域の医療機関とも連携し、がん診療の水準の向上に寄与していく所存です。