第151号 2024年1月1日発行
PDF版はこちら (1.58MB)
2023年4月に感染予防対策室の医長として着任しました、感染症専門医の十菱(じゅうびし)大介と申します。これまでは主に大学病院で感染症の診療を行っており、新型コロナウイルスのワクチン接種後の抗体産生と副反応の関連についてチームで研究を進めていました。当院では院内の感染防止対策の専任医師として努めて参ります。どうぞよろしくお願いいたします。
感染予防対策室では、病院内での感染症の伝播を防ぐための決め事を作ったり、実際に院内感染が発生した時に感染の拡がりを最小限にするための対策を指示したりするなど、様々な形で診療科の主治医チーム、病棟と連携して院内感染を防ぐべく活動しています。外来や病棟で患者さんの診療を行うわけではないため馴染みがないかもしれませんが、お見知りおきいただければと思います。
感染予防対策室の重要な業務の一つに、院内の抗菌薬の適正使用を推進していくことがあります。細菌による肺炎、膀胱炎などの感染症を治療するためには抗菌薬(抗生物質とも呼ばれます)の投与が必要ですが、近年は抗菌薬が効かない「耐性菌」と呼ばれる細菌が増えており、世界中で大きな問題となっています。
抗菌薬がよく効く細菌と耐性菌が共存している環境に抗菌薬を投与すると、よく効く細菌は死滅しますが耐性菌は生き残ります。抗菌薬を投与することが、体内の耐性菌を増やすことになってしまうのです。そのため、抗菌薬は本当に必要なときにのみ使用し、不要なときは使用しないことが最も重要です。感染予防対策室では、院内で抗菌薬が使用されているときに、その抗菌薬が本当に必要か、投与期間が長くなりすぎていないか、などの視点で状況を確認し、適正使用に向けた助言や指示を行っています。
抗菌薬が不要なケースの代表が、風邪やインフルエンザ、新型コロナなどウイルスによる感染症です。抗菌薬は細菌には有効ですが、ウイルスには全く効きません。風邪に抗菌薬を投与しても感染症はよくなりません。しかも体の中で耐性菌は増えてしまいます。副作用で下痢をするかもしれません。良いことはありません。
発熱や咳で受診した際に「抗生物質を処方してほしい」と希望される方もいらっしゃいます。しかしながら、ウイルス感染症に抗菌薬を投与することはデメリットしかないため、医師は風邪と判断した場合は抗菌薬を処方しません。耐性菌の増加を防ぐため、皆様にも抗菌薬の適正使用へのご協力をお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。
※AMR臨床レファレンスセンター作成「川柳ポスター」より抜粋して引用