八木昌人先生の後任として2024年4月1日付で耳鼻咽喉科部長として赴任しました福岡修と申します。私は2009年7月から2011年3月まで東京逓信病院の耳鼻咽喉科医師として勤務した経験があり、13年ぶりに戻って参りました。前回の赴任中は八木先生のご指導のもとで耳鼻科全般の診療経験を積ませていただき、当時の経験が現在の私の耳鼻科医としての礎になっています。その後は、がん専門病院および大学病院で頭頸部腫瘍の専門医として研鑽を積んで参りました。形成外科や脳外科などと合同で行うかなり大掛かりな手術を最も得意としておりますが、従来の化学療法(抗がん剤)に加えて、分子標的薬や免疫療法といった新規の薬物療法も数多く経験してきました。
頭頸部腫瘍とは鎖骨から上の目と脳を除いた部位にできる腫瘍の事です。舌を含む口腔、咽頭、喉頭、唾液腺(耳下腺や顎下腺)、甲状腺にできる事が多く、まれに鼻や耳にもできます。良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)がありますが、治療の中心は手術となります。ただし、頭頸部領域は飲み込みや発声などをはじめとした日常生活を送るうえで非常に重要な機能が集約している事と、衣服などで覆い隠す事が難しい体表になるため、大きな手術は通常の日常生活を困難とする機能喪失や容貌の変化をもたらすことが少なくありません。
以上のように頭頸部腫瘍の治療は日常生活に直結する事が多いため、ただ“治る”事(医学的には根治と言います)のみを追い求めると治療前の生活を維持できない、あるいは著しく損ねてしまう事があります。逆に機能温存を重視し過ぎると不十分な治療となってしまい、本末転倒となりかねません。そこで、私はこれまで根治性と機能温存のバランスがとれた診療を目指してきました。
その一つが喉頭温存手術です。甲状腺がんは進行が非常にゆっくりで、命に関わる事が少ないがんとして知られています。ただ中には気管や喉頭に浸潤してしまった状態で発見される事もあります。従来ですと喉頭(声帯)の摘出が必要とされる症例にも喉頭部分切除術を積極的に取り入れてきました。そうする事により、病気を完全に取り除いたうえで、声も残すことが可能となります。
その他には耳下腺腫瘍の手術があります。耳下腺腫瘍は若い方や女性にできることも珍しくありませんが、通常は耳の前方から頸部に至る皮膚切開で行われます。頸部の傷は完全に隠すことが困難ですが、私はこれまで頸部に傷を伸ばすことなく、耳の後ろに留めることにより傷がほとんど目立たない切開法(Facelift incision)を取り入れてきました。
今後の東京逓信病院耳鼻咽喉科では、これまで通り一般的な耳鼻科診療を継続しながら、頭頸部腫瘍の診療を拡充していく事により、あらゆる耳鼻科疾患に対応できる診療科として発展させていきたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。