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けんこう家族 第106号

第106号 平成24年10月1日発行

帯状疱疹(たいじょうほうしん)

院長補佐 皮膚科部長 江藤 隆史

院長補佐 皮膚科部長
江藤 隆史

 帯状疱疹については、9年前にも本誌第69号(平成15年7月)で解説させていただいていますが、とても重要な疾患で あり、特に初期症状から早期診断・早期治療をすることで治療困難な後遺症である帯状疱疹後神経痛を防ぐことが出来るので今回は1面トップでの再登場(再活性化?)とさせていただきました。

帯状疱疹とは?

 ヘルペス・ゾスター(HerpesZoster)とも呼ばれています。Herpes(疱しん)とは、水疱を起こす皮膚病の意味で、他に単純性疱疹(唇や陰部などに水疱を起こす病気)などがあります。Zosterは、英語の辞書で調べると「古代ギリシアの男子が用いた帯」とあり、帯状と訳されます。皮膚症状が帯状にでるからですが、実際には半帯状で1周することはまずほとんどありません。それは、原因ウイルス(水痘帯状疱疹ウイルス)が、過労やストレスあるいは強力な治療(抗がん剤など)によって再活性化し、知覚神経に沿って皮膚へと移動してくるからです。
 図1に水痘との関係を示しました。子供の頃罹患した水痘(みずぼうそう)は、高熱とともに全身に水疱を生じ、免疫の力が働いて治ってゆきます。このとき、皮膚で水疱を作っていた水痘ウイルスは、皮膚に伸びてきている知覚神経を伝って背骨のところにある神経根に逃げ延び、じっと潜伏を決め込みます。水痘になったことのある方なら全員、その状態になっているはずです。水痘に対する免疫が完成すると、もう2度と水痘にはなりませんが、一部の免疫(メモリーT細胞という水痘を記憶しているリンパ球)が、年齢を加えるにしたがって低下してきますと(図2)、脊髄神経後根神経節に眠っていた(潜伏感染)水痘の原因ウイルスが目を覚まし(再活性化)まずは神経を壊しながら進軍し(神経痛が先行)、次第に皮膚に浮腫性紅斑・水疱を生じ、半帯状に拡大されます。帯状疱疹は、人から移って出るのではなく、自分の体の中のウイルスが原因なのです。帯状疱疹の水疱には、ウイルスがたくさんいますが、家族に帯状疱疹をおこすことはありません。しかし、水痘になったことのない家族がいれば、水痘を起こす可能性はあります。ということで帯状疱疹の原因ウイルスは水痘と同一であるためそのウイル スの名前は水痘帯状疱疹ウイルスと名づけられています。


図1.水痘と帯状疱疹の関係


図2.水痘と帯状疱疹の免疫

症状は?

 初期症状が重要です。全身のどこにでも生じ得ますので、出始めは、「虫刺され」か、ちょっとした「おでき」あるいは「かぶれ」のように思われることがほとんどです。異なるのは、痛みを伴うことでしょう。先に神経が傷害されるので皮膚症状が出る前に偏側性の痛みが自覚されることが多いのが特徴です。頭ですと「偏頭痛」、肩周囲ですと「五十肩」、胸では「狭心症」、腰部腹部では「腰痛症」「虫垂炎」「尿路結石」などと思われます。痛いので湿布を貼ることも多く、その部位に皮膚症状が出ますので「かぶれ」と思い込んでいる場合もすくなくありません。狭心症を疑って入院中、心電図の吸盤の部位にかぶれが生じたと相談を受け、帯状疱疹だったこともありました。初期は痛みのみであり、皮膚症状が出ても、背面に出る場合が多く、気づくのに遅れることが多いようです。

症状が進むと?

 治療が遅れ、症状が進行すると、皮膚は激しく崩れ、顔では、片側が激しく崩れるため、四谷怪談の「お岩さん」の病気として有名です。神経も強くダメージを受けますから、強い痛みが早い時期から現れます。逆に、感覚が低下する場合や痛みでなく痒みが主体の場合もあり、人それぞれです。最も患者さまを悩ませるのは、発症後3ヶ月以降に出てくる神経痛で、これは「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれていて、この病気の最大の問題点といえます。当科にも時々5-6年痛みが継続している患者さまが受診され、なかなか良い対応策が無かった頃は、対応に難渋し、麻酔科の平石部長に助けていただいていました。さまざまな痛みが、帯状疱疹の出た部位に持続し、年余にわたると多くの方はうつ状態になってしまいます。10年以上の経過の方もいらっしゃいます。「もう耐えられない。この痛む腕を切断して欲しい」と訴えた患者さまもいらっしゃいました。
 最近いくつかこの「帯状疱疹後神経痛」に効果的な薬が出てきていますが、完全に痛みが消えるわけではなく、最善の対策は、帯状疱疹の早期診断・早期治療といえるでしょう。時には、知覚神経のそばにある運動神経も傷害され麻痺を生じます。顔の場合、顔面神経麻痺が心配されます。顔がゆがみ、片目が閉じず、水を飲むと片側からこぼれ、大変な苦労がしばらく続きます。おしりの場合は、頑固な便秘や尿閉(おしっこが出たくてもでない)になることもあります。対策は、やはり早期治療です。

治療は?

抗ウイルス薬の点滴か内服が行われます。点滴は入院ですが、内服は外来で可能です。いずれも7日間の治療で終了しますが、疲れで免疫が低下しているための発症が多いので、できるだけ安静を保つ必要があり、当科では、積極的な入院治療をお勧めしています。ご家族の看病や介護、仕事が過密など入院などしていられないような状況で発症しやすく、「泣きっ面に蜂」的な病気ですが、「疲れ得すぎですよ。休みが必要ですよ」というカラダからの危険信号と思い直し、ゆっくりカラダを休めることを考えてください。 当院では、即日入院がいつでも可能です。9階の特別室(1日40、000円〜50、000円 税抜)もご用意できますので、ご利用ください。

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